2016年12月10日
下北沢Ｘ物語(3175）〜廣部谿香園の謎�供�
（一）荏原は都鄙境にある、都市辺境の物語が幾万、億万も埋まっている。常日頃、ここを逍遙して歩いている。朽ち果てた邸宅があったり、思いがけずかつてのままの武蔵野が残っていたりする。街区街区に物語が刻まれているが人は忘れる。主人が若い妻を猟銃殺害した事件があった、田園調布。長尾よねが近衛文麿首相に青酸カリを渡したところ、深沢。終戦の詔を清書した若林の邸宅。元連合艦隊司令長官の旧居、下馬。至るところに物語りが編まれた場がある、しかし、それらは朽ち果てていくだけだ。それが都会だ。廣部谿香園の場所は、見当がついた。が、これは何だったのか分からない。大事なことは現場である。そこがどうなっているのか観察すると見えないものが見えてくる。この場所を知ったとき直感的に淀橋台物語の一環だと推理した。
目黒川左岸崖線の物語だ。ここは淀橋台から派生した台地が高度を保ちながら南部御殿山方向へと流れている。この尾根筋の高みを活用して三田用水が流れている。目黒川左岸の崖線は険しい。この坂を上る道は何れも険しい、昔から難儀した坂がある。
地形は険しく坂など上るには難儀する、が、この高みこそは得がたい眺望である。丘上には豪壮な邸宅がある。眺望絶佳、遙か向こうには神々しい富士の姿も眺められる。ここの丘上は高級マンションや邸宅が建ち並んでいる。
昨日、目黒の自宅から現場まで歩いた。まずは駒沢通りを通って目黒台を抜けていく。この大地はフラットだ。が、目黒川を渡ると左岸崖線は急峻だ。北から派生してきた淀橋台が崖を作っている。急斜面はだいぶ開発されたがおおくそこには緑が残っている。廣部谿香園の名前は、この地形にこそヒントがある。
（二）中目黒を通っていく、目黒川のどぶが匂う何でもない街だった。が、昨今は川沿いにテラスを置いた店があったなかなかしゃれている。桜の季節には副都心線直通できた川越近辺のおばちゃんたちが大勢桜見物にきて混み合うようになった。
園の所在地は、中目黒三九二番地である。河岸段丘二番目の下を川と並行している道があった。北側から入っていくと左手の崖下は学校になっている。「目黒学院中学校・高等学校」である。当該番地はこの前あたりだと思われる。
都市が膨張にするにつれて私鉄鉄道が郊外に敷設されるようになった。この場合、「園」とつけるのがはやりだった。他との差別化だろう、園とすることによって高級感を出したのかもしれない。清風園、大山園、松濤園などもその一例だろうか。
先の目黒区のホームページにあったが、明治三十年頃、廣部清兵衛は中目黒三丁目から四丁目に別荘驪山荘を建てた。客をもてなすためのものだったらしい。これは昭和初めに箱根土地がこの土地を入手し分譲住宅地として開拓し「松風園」と名づけたという。
では、廣部谿香園は何だったのか。ここに名づけられる「廣部」が廣部銀行創設者の廣部清兵衛であったとするならば、極めてプライベートな別邸だったと推測される。廣部銀行は昭和五年に廃業している。とすればなおさらだ、蟄居したり引退したりした後の私宅だったのかもしれない。
（三）
しかし、「廣部」をすぐに「廣部銀行」と結びつけるのは安直だ、目黒区の図書館のレファレンスでは、「中目黒三九二番地」を念頭に、「この近辺でいえば廣部清兵衛の驪山荘です」と、「直接の関係はないかもしれませんが」と断りつつも廣部清兵衛に言及している。すでに近くに大別荘があるのにまた、廣部谿香園を持つのかという疑問は持たねばならぬ。
きむらたかし力は、ここがすごい、なんともいやはやである。
中目黒392の「廣部さん」を国会図書館の日本紳士録から拾ってみました
日本紳士録 中目黒392
T!3 廣部熊太郎（職業：廣部鉱業監査役）
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1703976/467
T14 廣部熊太郎（職業：-）
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1703881/502
T15 廣部熊太郎（職業：銀行員）
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1703888/415
S02 廣部熊太郎（職業：銀行員）
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1145492/420
S03 −
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1145537/362
S04 ー
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1145603/380
S05 廣部福之助（T05〜S15所有者）
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1145681/353
S06 廣部福之助（T05〜S15所有者）
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1145751/367
このもともとの話、新井真理子さんの父の遺品の中にあったものから始まっている。つまりは、昭和六年新井清丸さんの動向としてこう書かれていた。
三月三十日 都合ニヨリ東京府下 中目黒三九二番地ナル廣部谿香園ニ転居ス
となると「日本紳士録」に該当するのは、廣部福之助ではないだろうか。彼は一体何者なのだろうか。
（四）
「谿香園」の名であるが現地を訪れて思ったことだ。「谿」背後に聳える崖線ではなかったか。ここに多くの樹木が生えていた。自然林に近い、松や楠などそんな木々のにおいが常日頃漂っていたのかもしれない。上記からすると廣部福之助の別邸、別荘、あるいは寓居だったのではないかと想像される。
当該番地の道を南に行くとずんずん坂勾配が急になる。頂には別所坂の案内版があった。このあたりなんといっても得がたいものは眺望であった。眼下に目黒川、はるかむこうに富士が見えた。
（補注）
上記の件に関して新井真理子さんから詳しいコメントが入ってきたので、ここに記録として転載するものである。（きむらけん）
けん先生、たかしさま
引き続き、ありがとうございます。
「紳士」「名士」とは無縁のため、全く思いつきませんでした。
目次のない巻号まで目を通していただき、恐縮しております。
旧土地台帳によると、大正五年に所有権が廣部清一郎（←強い癖字ですが）から福之助に移転しています。
教えていただいた紳士録によると、清一郎と熊太郎はどちらも廣部鉱業関係者です。
清一郎と清兵衛の住所はほぼ同じです。
熊太郎と入れ替わるように名前が出始める達三は、銀行創業者の息子の長女清子の婿養子だそうです。（個人の谷中霊園情報サイトより）
色々併せると、やはり、廣部家の身内のような気がしております。
昨日の記事、拝見させていただきました。
こういうことは初めてで、不思議な感覚です。
遅ればせながら、祖父「新井潔」をごく簡単に紹介させていただきます。
明治13年に長男として生まれ、昭和32年に他界しました。
（私は東京オリンピックの年に生まれました。）
目黒試験苗圃以前は『吾輩は猫である』の落雲館のモデル、郁文館の生徒でした。
同級生に『三四郎』の運動会シーンのモデルになった外交官藤井実や、国文学者物集高量など、等々有名人複数がいます。
国会図書館デジコレで学園史の閲覧が可能なので白状しますが、祖父の卒業成績は落第スレスレでした。
もう一つ白状すると、物集高量の著書等に、彼に毎日暴力を振るった（トンデモない）同級生として実名を挙げられています。
園の所在地は、中目黒三九二番地である。河岸段丘二番目の下を川と並行している道があった。北側から入っていくと左手の崖下は学校になっている。「目黒学院中学校・高等学校」である。当該番地はこの前あたりだと思われる。
都市が膨張にするにつれて私鉄鉄道が郊外に敷設されるようになった。この場合、「園」とつけるのがはやりだった。他との差別化だろう、園とすることによって高級感を出したのかもしれない。清風園、大山園、松濤園などもその一例だろうか。
先の目黒区のホームページにあったが、明治三十年頃、廣部清兵衛は中目黒三丁目から四丁目に別荘驪山荘を建てた。客をもてなすためのものだったらしい。これは昭和初めに箱根土地がこの土地を入手し分譲住宅地として開拓し「松風園」と名づけたという。
では、廣部谿香園は何だったのか。ここに名づけられる「廣部」が廣部銀行創設者の廣部清兵衛であったとするならば、極めてプライベートな別邸だったと推測される。廣部銀行は昭和五年に廃業している。とすればなおさらだ、蟄居したり引退したりした後の私宅だったのかもしれない。
（三）
しかし、「廣部」をすぐに「廣部銀行」と結びつけるのは安直だ、目黒区の図書館のレファレンスでは、「中目黒三九二番地」を念頭に、「この近辺でいえば廣部清兵衛の驪山荘です」と、「直接の関係はないかもしれませんが」と断りつつも廣部清兵衛に言及している。すでに近くに大別荘があるのにまた、廣部谿香園を持つのかという疑問は持たねばならぬ。
きむらたかし力は、ここがすごい、なんともいやはやである。
中目黒392の「廣部さん」を国会図書館の日本紳士録から拾ってみました
日本紳士録 中目黒392
T!3 廣部熊太郎（職業：廣部鉱業監査役）
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1703976/467
T14 廣部熊太郎（職業：-）
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1703881/502
T15 廣部熊太郎（職業：銀行員）
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1703888/415
S02 廣部熊太郎（職業：銀行員）
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1145492/420
S03 −
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1145537/362
S04 ー
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1145603/380
S05 廣部福之助（T05〜S15所有者）
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1145681/353
S06 廣部福之助（T05〜S15所有者）
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1145751/367
このもともとの話、新井真理子さんの父の遺品の中にあったものから始まっている。つまりは、昭和六年新井清丸さんの動向としてこう書かれていた。
三月三十日 都合ニヨリ東京府下 中目黒三九二番地ナル廣部谿香園ニ転居ス
となると「日本紳士録」に該当するのは、廣部福之助ではないだろうか。彼は一体何者なのだろうか。
（四）
「谿香園」の名であるが現地を訪れて思ったことだ。「谿」背後に聳える崖線ではなかったか。ここに多くの樹木が生えていた。自然林に近い、松や楠などそんな木々のにおいが常日頃漂っていたのかもしれない。上記からすると廣部福之助の別邸、別荘、あるいは寓居だったのではないかと想像される。
当該番地の道を南に行くとずんずん坂勾配が急になる。頂には別所坂の案内版があった。このあたりなんといっても得がたいものは眺望であった。眼下に目黒川、はるかむこうに富士が見えた。
（補注）
上記の件に関して新井真理子さんから詳しいコメントが入ってきたので、ここに記録として転載するものである。（きむらけん）
けん先生、たかしさま
引き続き、ありがとうございます。
「紳士」「名士」とは無縁のため、全く思いつきませんでした。
目次のない巻号まで目を通していただき、恐縮しております。
旧土地台帳によると、大正五年に所有権が廣部清一郎（←強い癖字ですが）から福之助に移転しています。
教えていただいた紳士録によると、清一郎と熊太郎はどちらも廣部鉱業関係者です。
清一郎と清兵衛の住所はほぼ同じです。
熊太郎と入れ替わるように名前が出始める達三は、銀行創業者の息子の長女清子の婿養子だそうです。（個人の谷中霊園情報サイトより）
色々併せると、やはり、廣部家の身内のような気がしております。
昨日の記事、拝見させていただきました。
こういうことは初めてで、不思議な感覚です。
遅ればせながら、祖父「新井潔」をごく簡単に紹介させていただきます。
明治13年に長男として生まれ、昭和32年に他界しました。
（私は東京オリンピックの年に生まれました。）
目黒試験苗圃以前は『吾輩は猫である』の落雲館のモデル、郁文館の生徒でした。
同級生に『三四郎』の運動会シーンのモデルになった外交官藤井実や、国文学者物集高量など、等々有名人複数がいます。
国会図書館デジコレで学園史の閲覧が可能なので白状しますが、祖父の卒業成績は落第スレスレでした。
もう一つ白状すると、物集高量の著書等に、彼に毎日暴力を振るった（トンデモない）同級生として実名を挙げられています。
この記事へのコメント
1. Posted by きむらたかし＠三田用水 2016年12月11日 01:05
[廣部銀行の休業]
国会図書館・蔵「朝日年鑑 昭和3年版」
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1117650/279
p.551のリストの冒頭から3行目
国会図書館・蔵「朝日年鑑 昭和3年版」
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1117650/279
p.551のリストの冒頭から3行目
