2016年12月21日
下北沢Ｘ物語(3182）〜終戦後の下北沢のカラー画像を歩く�掘�
（一）Dr.Austin氏が撮った下北沢のカラー写真は見事に時代を捉えている。焼け残った古い街が新しい装い、化粧を凝らしている。茶色の木造家屋がカラフルな広告で飾られている。木製のくすんだ電柱とは好対照だ。カラー現像技術の高さが目に見えないものまで写している。写真に音やにおいはレコードされていない、が、しかしこれに撮られた街並から今にも音が聞こえてきそうである。店主の売り声、街行く人の足音、そして電車のタイホンなどだ。また八百屋の店先では野菜が、総菜屋では揚げ物のにおいがした。当時の音やにおいは残されてはいない。しかし、この戦後すぐに撮られた十六枚の写真からは匂いが立ち、音が聞こえてくる。街を記録したものとしては貴重だ。今回の街歩きの最後は、北沢三丁目の「東京セロファン工場」の跡地だった。ちょうどここの向かいに古老の三十尾生彦さんが住んでおられる。呼び鈴を押すと、ガラリと二階の窓から顔を覗かせて「その突き当たりの左が工場だった」、「そうその角が女の子のいるカフェだった」と。
その三十尾さん、フェイスブックでこちらの街歩きはチェックしておられる。「当時の写真からは失われた多くの音が想像できた」と私は述べた。これに対して三十尾さんは刺激を受けたらしく「音のリストを作ってみようかと思った」とのコメントがあった。
九十三歳になる三十尾さんは長く生きてきた分、多くを見聞きしている。
「今と違って町角にはたくさんの音が聞こえてきましてね、今思えば懐かしいですよ。みんな流しでしたね。行商人や芸人とかがそこの道を抜けていくのですね…」
下北沢は鉄道の街ではあるが道の分岐点でもあった。この指摘は大事だ。南から北へ、北から南へ人々は抜けていった。二子道をそのまま北上していくものがいたり、また堀之内道へ通ずる本通りを北西に抜けていったりもした。行商だからみな歩きだ。
多くの売り声が音楽のように町中に響いていた。
「よくね、地方までいくんですけどね、下北沢は音楽の町と言われているんですよ。この辺り芸人とかが通っていったんでしょうけどね、どこを通ったのですか。」
これは歩く会に参加していたアコーデオンのヤギさんだ。この街の流しとしてよく知られている。
「やっぱりね、今の一番街を抜けていったんだね」と私。
「十月になると家の前を鉦太鼓がどんつくどんつくと通っていきましたよ」
大月商店のおばちゃんの言葉を思い出した。旅芸人も通っていったろうと思う。
やはり音のリストは大事だし、貴重だ。三十尾さんの応答を待っていると、それが送られてきた。そのタイトルには、「道行く人生」とある。下北沢を行き交った人々が発した音模様である。
（二）
三十尾さん、音楽的感性は豊かだ。
「私はナイトで八幡湯裏のそばのダンス教室のインストラクターをやっていました」と。戦後のことである、もしかしたらタップダンスをやっていたのかもしれない。今も背筋がぴしっと伸びていて、すぐにもステップを踏めそうだ。
さて送られてきた、そのリストだ。
道行く人生
・いわし売り “イワシこ イワシこ”
・しじみ売り “しじみぃ しじみぃ しじみはいらんかね”
・玄米パン売り “玄米パン 玄米パン”
・羅宇や 小さな汽笛鳴らす ぽぉーぴぃ キセル直し
・クズや “クズイー お払い”
・支那そば屋 寂しいチャルメラの音 ラララァラララ、ラララァ
・金魚や 掛け声 “金魚や 金魚”
・研屋 掛け声は“はさみ包丁 ハサミ 包丁
・剃刀研ぎ“
・いかけ屋 鍋釜修理
・錠斎屋 薬売り
天秤棒の前後に引き出しをぶら下げて引き出しの取っ手を カタカタと忙しく鳴らして通る。
イワシやシジミは東京湾でも採れた。漁民が売りにきていたと聞く。この呼び声巧い人と下手な人がいた。
パン売りは、「ロバのパン」があった。こちらは「パン売りのロバさん」を蓄音機にかけてながしていた。
到るところに音があった。
昨日だったか。ネットで永井叔をチェックした人から電話があった。
「太子堂に住んでいまして、マンドリンを抱えて一帯をながしていたんですよ。音が聞こえるとみんな子どもは集まってきまして…」と私。
寂しいときは、大空を 仰ぐがよい。なお、寂しかったら、大木に向って 考えなさい。
（三）
三十尾さんのリストの続きだ。
・シンコ細工 屋台引き 実演
・飴細工 屋台引き 実演
・シンコ細工 屋台引き 実演
・紙芝居 拍子木で人を集める
・薬売りオイッチ二の兵隊さん
・恵方漫才 戸別訪問（角ずけ）
・富士講 六根清浄の掛け声
・虚無僧 尺八（角ずけ）
・山伏の集団 法螺貝を吹く
・供養旅のおばさん
小さな仏壇を背負い鈴を鳴らし御詠歌を歌う
・富士講 １０人くらいの集団で
・大山詣りの講 賑やか集団
・御会式の 団扇太鼓の集団
・石焼芋 ”石ヤーキ芋”
リストを見ていくと一つ一つのかつての姿が蘇ってくる。
せっかくの記録である、このリストに続く、街の音をコメントされたい。
○Dr.Austin氏の写真について
今回の街歩きのキュレーター きむらたかし氏が写真を撮った場所、そして写真現物のリンク先を当方、「北沢川文化遺産保存の会」の掲示板にアップしておられる。
参照されたい。
三十尾さん、音楽的感性は豊かだ。
「私はナイトで八幡湯裏のそばのダンス教室のインストラクターをやっていました」と。戦後のことである、もしかしたらタップダンスをやっていたのかもしれない。今も背筋がぴしっと伸びていて、すぐにもステップを踏めそうだ。
さて送られてきた、そのリストだ。
道行く人生
・いわし売り “イワシこ イワシこ”
・しじみ売り “しじみぃ しじみぃ しじみはいらんかね”
・玄米パン売り “玄米パン 玄米パン”
・羅宇や 小さな汽笛鳴らす ぽぉーぴぃ キセル直し
・クズや “クズイー お払い”
・支那そば屋 寂しいチャルメラの音 ラララァラララ、ラララァ
・金魚や 掛け声 “金魚や 金魚”
・研屋 掛け声は“はさみ包丁 ハサミ 包丁
・剃刀研ぎ“
・いかけ屋 鍋釜修理
・錠斎屋 薬売り
天秤棒の前後に引き出しをぶら下げて引き出しの取っ手を カタカタと忙しく鳴らして通る。
イワシやシジミは東京湾でも採れた。漁民が売りにきていたと聞く。この呼び声巧い人と下手な人がいた。
パン売りは、「ロバのパン」があった。こちらは「パン売りのロバさん」を蓄音機にかけてながしていた。
到るところに音があった。
昨日だったか。ネットで永井叔をチェックした人から電話があった。
「太子堂に住んでいまして、マンドリンを抱えて一帯をながしていたんですよ。音が聞こえるとみんな子どもは集まってきまして…」と私。
寂しいときは、大空を 仰ぐがよい。なお、寂しかったら、大木に向って 考えなさい。
（三）
三十尾さんのリストの続きだ。
・シンコ細工 屋台引き 実演
・飴細工 屋台引き 実演
・シンコ細工 屋台引き 実演
・紙芝居 拍子木で人を集める
・薬売りオイッチ二の兵隊さん
・恵方漫才 戸別訪問（角ずけ）
・富士講 六根清浄の掛け声
・虚無僧 尺八（角ずけ）
・山伏の集団 法螺貝を吹く
・供養旅のおばさん
小さな仏壇を背負い鈴を鳴らし御詠歌を歌う
・富士講 １０人くらいの集団で
・大山詣りの講 賑やか集団
・御会式の 団扇太鼓の集団
・石焼芋 ”石ヤーキ芋”
リストを見ていくと一つ一つのかつての姿が蘇ってくる。
せっかくの記録である、このリストに続く、街の音をコメントされたい。
○Dr.Austin氏の写真について
今回の街歩きのキュレーター きむらたかし氏が写真を撮った場所、そして写真現物のリンク先を当方、「北沢川文化遺産保存の会」の掲示板にアップしておられる。
参照されたい。
