2017年06月25日
下北沢Ｘ物語(3306）−第129回街歩き「三田用水跡を歩く」−
（一）都市を巡る小さな旅を続けている、24日は恵比寿を起点に「三田用水跡」を歩いた。この行事は六月の定番コースだ、これまで何回歩いたか定かではない、七回も八回も歩いたような気がする。来年以降もとことん続けることにしている。命のある限り……。この行事も間もなくで130回を超える。八月だけは行わない、それで年11回行っている。すると十二年続けてきたことになる。その中で三田用水の痕跡歩きが長く続いた。その理由、�．�ュレーター、きむらたかし先生の熱意。�∧發�きれないほどのコースの多彩性。��少なからず興味を持つ人がいる。この三つに尽きる。
この街歩きは、旅である。三木清は「どのやうな旅も、遠さを感じさせるものである。この遠さは何キロと計られるやうな距離に關係してゐない。」（『人生論ノート』）という。距離的なものでいうとほんの数キロだ。しかし私達は通っていく道で「はるけさ」や「とおさ」の感情を味わった。
三田用水、その痕跡はほとんど残っていない。しかし、ところどころに礎石が残っていて水路があったことを教えてくれる。やはりなんといっても面白いのはわずかな痕跡から水路を想像することだ。「水路をとうとう流れていく水」これがビール工場に流れていったり、海軍の大水槽を満たしたりした。そう思うと遙か昔が想像される。ラインに運ばれていくビールビンに洗浄水がゴボゴボと注がれる。また、戦艦大和や武蔵の模型が、水槽で波を蹴立てていく様も思われる。
「学術調査なんですか？」
大日本麦酒への水路を調べているときに近所のおばさんが通りかかった。
「そこのガーデンプレイスにビール用の水を送っていた水路がここにあったんですよ。その跡を調べているんですよ」
「ええ、そんなことを！」
「ほら、この山の手線を越えたところに恵比寿長者丸線があったでしょう」
「そうそう、あったわね」
「電車の留置線に古い電車が置いてあって、そこに引き揚げてきた人たちが住み込んでいましたね？」
電車の窓には洗濯物、オープンデッキの運転台には炊事場、そんなことが思い出される。
「ああ、私は見ていないのですけど、うちの主人がそんなこと言っていましたね」
昔日のことを土地の人から聞き出すのも楽しい。
（二）
「ほらこの道が軌道跡ですよ。なんとなくカーブしているでしょう」
白金海軍軌道跡である。目黒川の近くの海軍火薬庫から山の手線を潜って、今の自然教育園のところにあった白金弾薬庫までの軌道が敷かれていた。
「施設の建物配置からするとこの軌道が単純なんですね。小型機関車なんかを使っていたわけではないのです。火薬を運ぶわけだから火気はあぶないでしょう。だからトロッコですね……」
先生は指摘する。こういう話を聞くと、想像が刺激される。半天を脱いで半裸になった土工たちがトロッコを押す、下りでは彼らがトロッコに捕まり、ごとんごとんと下っていく。すると線路がしなり、半天の裾が風に翻る。
「かっちょいい！」
近隣の子供は間違いなくこれを見にきているはずだ。
荏原一帯を日々歩いているから知っている。保育園児が喜ぶところは電車線が見える陸橋である。子供が動く電車が大好きだということを知っている、それで毎日といっていいほど彼らをそこに連れて行く。動く電車は飽きない。保育士さんの知恵である。
我らの旅は、短いものだ。が、「短い距離であつても、一日彼が旅に出るとなると、彼はその遠さを味ふのである。」と三木清はいう。この場合の遠さというのは実質的な距離をいうものではない。精神的な感情の距離である。水路跡を歩いてもたいした距離ではない。が、その地点に立って、過去を思うときにはるけさの感情が湧いてくる。
三田上水の水を使っていた大名屋敷の流しにぴちぴちと跳ねて鮎が出てきた。想像を刺激する話だ。遙かな多摩川からずっと泳いできたさまが想像される。
「北沢の取水口でなぜ三田用水方向に鮎は曲がったのか？」
水路歩きは実距離ではない、想像の距離が含まれるので遙かである。
（三）
昨日、珍しく時刻表を買った。ところが売り場では様変わり、レジのそばにこれはかつては山積みしてあった。が、今は奥の方においてある。それだけ買う人が少なくなったからだろう。ネット検索で容易に時刻が調べられるようになったからだろう。
いつも夏前は、校正作業で忙しかった。旅に出てみようなど思ったこともない。が、今度は七月末締め切りで、九月発行。夏を予想して書いていただけにあらかた書き終わった。それで旅に出てみようかと思った。巻頭の鉄道地図を見て「さてどこにいこうか」と想像するのが楽しかった。が、これを見ても旅のイマジネーションが湧いてこない。実感したのは旅心が枯渇していたことだ。
そういえば、日々旅をしていて、リアルな現場に行くことが楽しい。渡辺順三が開いていた伝説的な古書店『大地堂』、そこにいくだけでもわくわくしてくる。
「このごろはどこ行っても風景が同じ、遠いところに行ってたいしたことのない風景をみるより、想像の旅が楽しめる、荏原逍遙旅でいいのでは？」
（恵比寿ガーディンプレイス前での記念撮影、米澤邦頼さんが撮った）
「ほらこの道が軌道跡ですよ。なんとなくカーブしているでしょう」
白金海軍軌道跡である。目黒川の近くの海軍火薬庫から山の手線を潜って、今の自然教育園のところにあった白金弾薬庫までの軌道が敷かれていた。
「施設の建物配置からするとこの軌道が単純なんですね。小型機関車なんかを使っていたわけではないのです。火薬を運ぶわけだから火気はあぶないでしょう。だからトロッコですね……」
先生は指摘する。こういう話を聞くと、想像が刺激される。半天を脱いで半裸になった土工たちがトロッコを押す、下りでは彼らがトロッコに捕まり、ごとんごとんと下っていく。すると線路がしなり、半天の裾が風に翻る。
「かっちょいい！」
近隣の子供は間違いなくこれを見にきているはずだ。
荏原一帯を日々歩いているから知っている。保育園児が喜ぶところは電車線が見える陸橋である。子供が動く電車が大好きだということを知っている、それで毎日といっていいほど彼らをそこに連れて行く。動く電車は飽きない。保育士さんの知恵である。
我らの旅は、短いものだ。が、「短い距離であつても、一日彼が旅に出るとなると、彼はその遠さを味ふのである。」と三木清はいう。この場合の遠さというのは実質的な距離をいうものではない。精神的な感情の距離である。水路跡を歩いてもたいした距離ではない。が、その地点に立って、過去を思うときにはるけさの感情が湧いてくる。
三田上水の水を使っていた大名屋敷の流しにぴちぴちと跳ねて鮎が出てきた。想像を刺激する話だ。遙かな多摩川からずっと泳いできたさまが想像される。
「北沢の取水口でなぜ三田用水方向に鮎は曲がったのか？」
水路歩きは実距離ではない、想像の距離が含まれるので遙かである。
（三）
昨日、珍しく時刻表を買った。ところが売り場では様変わり、レジのそばにこれはかつては山積みしてあった。が、今は奥の方においてある。それだけ買う人が少なくなったからだろう。ネット検索で容易に時刻が調べられるようになったからだろう。
いつも夏前は、校正作業で忙しかった。旅に出てみようなど思ったこともない。が、今度は七月末締め切りで、九月発行。夏を予想して書いていただけにあらかた書き終わった。それで旅に出てみようかと思った。巻頭の鉄道地図を見て「さてどこにいこうか」と想像するのが楽しかった。が、これを見ても旅のイマジネーションが湧いてこない。実感したのは旅心が枯渇していたことだ。
そういえば、日々旅をしていて、リアルな現場に行くことが楽しい。渡辺順三が開いていた伝説的な古書店『大地堂』、そこにいくだけでもわくわくしてくる。
「このごろはどこ行っても風景が同じ、遠いところに行ってたいしたことのない風景をみるより、想像の旅が楽しめる、荏原逍遙旅でいいのでは？」
（恵比寿ガーディンプレイス前での記念撮影、米澤邦頼さんが撮った）
この記事へのコメント
1. Posted by きむらたかし＠三田用水 2017年06月25日 23:10
〔皆様…〕
お疲れ様でした。
当日終盤のハイライト。初代目黒駅＋上大崎村の溜井跡
まだ、溜井があったころの地図を
「なんと、みつけちゃいました」
画像を使えないここのコメントや、画像が1枚しか使えないBBSでは詳細をお伝えするのは難しいので、ブログにまとめておきました。
http://mitaditch.blogspot.jp/2017/06/blog-post_25.html
ご笑覧を。
お疲れ様でした。
当日終盤のハイライト。初代目黒駅＋上大崎村の溜井跡
まだ、溜井があったころの地図を
「なんと、みつけちゃいました」
画像を使えないここのコメントや、画像が1枚しか使えないBBSでは詳細をお伝えするのは難しいので、ブログにまとめておきました。
http://mitaditch.blogspot.jp/2017/06/blog-post_25.html
ご笑覧を。
