2017年11月13日

下北沢X物語(3400)―銀河鉄道、音響的文学論―

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 果てもない旅、誰もしたことがない旅をしている。今度は、二回目チャレンジだ。一回目は散文詩の鉄道旅行だ。本のキャッチは、「近代詩人たちが書き残した『鉄道詩』の数々。それらに初めて光を当て、文学史の新たな側面を浮き彫りにした画期的著作がついに登場!」と謳った。(『日本鉄道詩紀行』:集英社新書)である。今度のはこれの散文版である。すなわち、明治、昭和、大正の文学に描かれた鉄道を行くという壮大な旅だ。今回のものはテーマがはっきりしている。それはカダンスを求めての旅だ。

 あの時代は遠く過ぎ去った。しかし、我々はその時間を潜り抜けて今にある、経過した時代から得たものは決して消えていない。カダンスという響きであり、刻みである。それは何か、分かりやすくいえば「ごとごと」という音である。

 これが面白い、この音の源流はどこにあるか、宮沢賢治「銀河鉄道の夜」にある。今回みちのくを旅した。いくつかの目的があったが一つは釜石線に乗るためである。

 この線の愛称は「銀河ドリームライン釜石線」だ。という名がついている。この線の前身が岩手軽便鉄道である。宮沢賢治『銀河鉄道の夜』はこの線をモデルにしたと言われる。
ここに行くことによってカダンスの核心が掴めるのではないかという思いがあった。

 究極の旅というものがある。典型的なのは松尾芭蕉「奥の細道」だ。「月日は百代の過客にして、行き交ふ年もまた旅人なり」で始まる。つまり、「月日は永遠に果てることのない旅人のようなものである。来ては去り、去っては新しくやってくる年もまた旅人である」ということだ。

 単純な時間論ではない、問題は時間の中身だ。明らかなことは現代のような超高速時間ではない。いまより遙かにゆったりとした時間だ。彼は歩いて旅をした、それは景色をめくっていく旅だ。歩いていくことで新しい風景に会い、また未知の人にも出会った。そういう変化に彼は時間を感じたものだ。その彼が旅する空間には音があり、匂いがあり、色があった。彼の辞世の句は、

旅に病んで夢は枯れ野をかけめぐる

病床に伏せった彼は、これまで旅をしてきた幾千里を脳裏に思い描いた。歩いてめくった一枚一枚の景色が思い起こされたものだろう。時間と空間遊離していず、旅ではめくられる景色を堪能できた。



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(二)
 カダンスを求めての旅、東京駅から始まった。新幹線はやぶさに乗った。カダンスはある。かぁかこっく、こっこくうくという音が床下でしているが音楽性はない。味気ないものだ。一関で新幹線を捨て在来線の大船渡線に乗った。こちらは「ドラゴンレール大船渡線」という名がついている。これは線形を形容するものだ。陸中の山間部は険しい、そこを縫っていく路線なのでくねくねと曲がっている。

 好天の秋の日、気仙沼行きのジーゼルカーは軽快に走った。山あり、谷あり、川あり、景色を見ていても飽きない。白壁に柿の木が映えている。車窓にめくられる景色はすばらしい。鉄道旅行に行くとき本は持っていかない。ローカル線に乗って景色を読むのがもっとも楽しい。

 農家の庭に洗濯物が干してある。即座に木山捷平を思い出した。車窓から見えた洗濯物の腰巻きに、「あれは明治三十年生まれの婆さんのものだ」などと即座に物語を想像する。

 ふと気づくと気動車がカダンスを奏でていた。カタタン、コトトンと。大船渡線には刻み目がまだ生きていた。かつての25メートルレールが使われている。どこもここもロングレール化している。汽車は音楽を奏でなくなって久しい。それが床下から聞こえてくる。

 隣のボックス席の二人連れ、出張にでもいくのだろうか。見とれるように景色をじっと眺めている。
「ああ、これだ」
 めくられる景色と響きとが重なって汽車は進行する。間違いなくカダンスがあって景色は生きてくる。かつてこの刻みは一般的に存在したものだ。

(三)
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 カダンスが時代を刻んでいた。それは一定の長さがあり、リズムがあった。人々はこれに慣れ親しんできていた。その音を聞けば誰もが懐かしく思うはずだ、ところが響きは消えていくものだ。ふと気づいたのはこれが文学作品の襞に記録されていることだ。これを辿れば私たちの精神史が分かるかもしれぬ。このことから始めていることだ。

 中でも宮沢賢治は鉄道の響きに対して見識が深い。「銀河鉄道の夜」は傑出した作品だ。一番感心するのは天空の車窓である。何よりも素晴らしいのはこれが想像によって描かれていることだ。が、麗しい車窓には美しい音楽が流れている。それが作品中では「ごとごと」という音だというのだが……
(上、気仙沼行きの車中で、中、三陸鉄道南リアス線、下、釜石市風景)




rail777 at 20:00│Comments(0)││学術&芸術 | 都市文化

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