2019年01月11日
下北沢Ｘ物語(3681)−思い出の東横線ワーレントラス橋−
（一）日々ほっつき歩く、昨日は渋谷へ、今日は大岡山へ。出歩くとドラマに出会う。今朝のことだ、まず近くの東横線の跨線橋、登ると保育園児がいる、「でんちゃ、でんちゃ」と喜んでいる。「みんな、でんちゃ好きなんだ」、「そうなんです」と保育士さん。「あれ、今日は富士がよく見えるよ」と指さすと、園児はポカン。たおやかな富士の嶺に子は全く興味を示さない。次ぎに平町バス停のところで老婆二人が向こうを指さしている。見るとビルとビルの間に見事に富士が見える。「きれいですね」というと「ここからの眺めは最高よ」と。「若い人に富士といっても感動しないのよ」、富士への興味は年老いてから湧くことを知った。
昨日は、渋谷まで行った。８日に代官山で行われた新年会で自身が問いかけた跨線橋が気になったからだ。
地下化した東横線は代官山からトンネルに入る。軌道跡には商業施設「LOG ROAD DAIKANYAMA（ログロード代官山）」ができた。何回かここは訪れている。が、人通りがほとんどない。平日の日中ということもある。人と擦れ違うということはない。前よりも賑わいが薄れたような気がする。とっつきのビアガーデンは人が入るが、奥は人の入りが悪いと聞いたことがある。
ログロードのロゴは、線路マークが入っている。線路の記憶を残すためだという。が、線路は繋がっていてこそ生きてくる。このログロードは先端部で折れて階段で終わる。そして、下りたところから東に進むと、くだんの跨線橋がある。
昨年秋に、東横線跡地にできた渋谷ストリームという高層ビルが開業した。そのときのニュースでは跡地はプロムナードになっていると伝えていた。
「もしかしたら代官山と繋がったのかもしれない」
そう思っていたのだが、跨線橋は元のままだった。
跨線橋に上って渋谷方向を見る。記憶にある風景はどこにもない。左手の崖だけは今も残っている。崖上の塀に長い間、「神永電線」という文字が書かれていたのを覚えている。自分が立っている跨線橋のすぐ北にワーレントラス橋があった。思い出の東横線鉄橋だ。
（二）
東横線を渡る鉄橋の音は青春を蘇らせる。渋谷方から来た電車が、ガドンガドンと鉄橋を渡る。後尾車両が抜けたとたんに鉄橋脇の「東横食品」のネオンがジジジジと鳴いていた。また横浜方から来た電車は、鉄橋を渡るとキィンキィンと音を立てた。急曲線を走る音だ。せつないほどに懐かしい。
もう何年前になろうか、代官山ステキ総研の岩橋理事長を訪ねたことがある。そのときに「緑の文化十字路」構想を伺った。
縦軸は「旧鎌倉街道・八幡通りと東横線跡地を視野に入れた線」、横軸は、「旧山手通りと目黒川に挟まれた西渋谷台地に残る緑の崖線」だ。ここには渋谷との行き交いが構想されていた。とくに素晴らしいと思ったのは「東横線跡地を視野に入れた線」だ。鉄橋が残されてそこが遊歩道になる、素晴らしい発想だと思った。
ところがこれは実現しなかった。東急線の事業部長だった人になぜ断念したのかを聞いたことだった。
「JR線の上を跨ぐ施設は経費を払わなくてはならない」
そんなことが障害になって実現しなかった。それゆえに山手線を跨ぐ橋は重要だ。しかし、ここを行き来する人はあまりいないらしい。
跨線橋から渋谷まで歩いたが代官山と繋がるプロムナードはなかった。安堵したことだ。
（三）
新年会では、やはり山手線を跨ぐ橋が重要だと言う国学院大学の田原裕子先生と話をした。
「跨線橋は、渋谷と代官山とを結ぶ重要な境界ですね」
この点では一致した。
渋谷資本は巨大である、ダイレクトに渋谷と結ばれるプロムナードができると代官山の独自性が失われるように思う。
渋谷文化は太くて強い、代官山は地域文化を大事にして独自の道を歩む。
「以前、猿楽神社をお参りする人なんかいなかったんですよ。ところが今年は行列ができていました」
「蔦屋が開店してもう八年になります。開店するときに並んだのはたった五人でした」
などという地域の話はおもしろかった。
（写真上、山手線を跨ぐ跨線橋。下、跨線橋から渋谷方向）
