2020年05月03日
下北沢Ｘ物語（3996）―洗足池のカルガモとアオダイショウ―
（一）「逃げろ！」、「危ない！」、池に渡された木道から人々が声を上げている。何事だ？そこへ行ってみる。人の肩越しにのぞいてみる。目についたのはカルガモの親だ、その後ろにひとかたまりとなった小さなヒナが懸命に泳いでいる。何とその後ろから蛇が追っている、大きなアオダイショウだ。「後ろに来て居るぞ！」「ママさん頑張れ！」またゲキが飛ぶ。ところが大勢を連れた母鳥は動きが遅い、ヘビは最後尾にきて襲い掛かろうとする。群れの一羽が遅れを取った、「危ない、食われるぞ！」と少年、「頼むから泳いで！」と少女、鈴なりになった見物人は誰もがカルガモを応援する。
「オーイ、こんなところミツになるな、みんなここから離れろ。ここでコロナにコロコロかかったらどうするんだ！」
身体の引き締まった体育会系のおっさんが現れて大声でいう。けども誰も動かない。
「それはおめえ、コロコロ死ぬに決まっているじゃないか」
缶酎ハイを片手に持ったおいさんが応戦すると皆がどっと笑う。
「バカ野郎、ソシアルディスタンスを取れといっているんだよ」
「何、ソシアルダンスをやれっていうのか、そんなんだったら可愛い子ちゃん連れてこいよ」
おいさんはかなりご機嫌がよい。
ところが事態は切迫してくる。ヘビが群れから遅れた一羽に襲い掛かろうとする。と、だれかが石を投げた。ボチャン、波紋が広がる。
「おめえらな、ヘビを目の敵にしているがこのヘビは池のお使いだぞ、そんなことも知らないのか、ほらあそこに神社が祀ってあるだろう、あれは弁財様だ、あのお使いをしているのがこのヘビなんだ」
「おいさん、なんで神の使いが、カルガモを襲うんだよ」
さっきの少年だ。
「おめえな、襲おうとしているんじゃないんだ、可愛がっているんだよ」
「そんなことありえません」
こちらは可愛い少女、胸においた手を握りしめている。
（二）
「お前らはな、歴史を知らないでそんなこと言っているのだ」
「日蓮が足を洗った洗足池……」
誰かが言った。
「ああ、そんな袈裟掛け松伝説は、どこにでもある。おれはふんどし掛け松があれば信ずるがな。な、そんなことよりも君ら、ここのビックな伝説は知らないだろう、ビックでびっくりだ……」
おいさん缶酎ハイの残りをごくごく飲んだ。
「いいか、ここのすぐ近くに大岡山があるだろう、そこに摺鉢山があったんだ、これの東側には狢窪があった。摺鉢山に右足、狢窪に左足を置いてダイダラボッチが立った。なんとあろうことかマラを出してしょうべんをしたんだよ。どぼどぼどぼと出して、それでこの洗足池ができたんだな……」
「へぇ知らない、初めて聞いた」
「もっと驚くことがあるぞ、そのときになダイダラボッチは東京湾に手を伸ばして土をすくい取って、西の方に積み上げた、それが富士山となったんだぞ！」
「驚き、桃の木、ダイダラボッチ……」と少年、が、後はみんなカルガモ親子を見ながらポカンとしている。
「あ、ヘビがとびかかるぞ！、やばい！」
「カルガモ逃げろ、カルガモ逃げろ！」
大人もこどももカルガモコール。
「ツバキを飛ばすな」
例のおっさん。
「カルガモが生きるか死ぬかというときに『ツバキを飛ばすな』はないじゃないですか」
これは花模様のマスクおばさん。
（三）
「おい、もぐったぜ、いよいよ襲いかかるんだ！」
みんな身を乗り出して固唾を呑む。
「飛び出たぞ！」
アオダイショウが母鳥の前に現れた。
「ヤバいぞ！」
「やめれ、アオダイショウ」
「がんばれ、カルガモ！」
一斉にカルガモコールが起こる。
と、そのときだ、水面から急に母鳥の前に躍り出た。見物人は息をのむ。と、アオダイショウが何かを吐き出した。
「オタマジャクシだ！」
そういうか言わないかというときに親鳥がパクリとそれを食べた。そして何でもないというふうに小ガモたちを先導していく。
そのカルガモたち、やがて、木柵の間をすり抜けて広い池に出た。小ガモたちもゆうゆうと泳いで行く。
するとアオダイショウ、への字くの字になって岸辺に引き返していく。
「な、言ったろう、アオダイショウはカモをカマっていたんだ」
おいさんは得意そうだ。
「なんだ、終わりか」
「そうそうゲームオーバー」
少年が終わりを告げる。
コロナコロコロ
カルガモピチャピチャ
アオダイショウはへの字くの字
ダイダラボッチはドボドボ
オイ、ダイダラボッチだ！
上を見るとでっかいマラ
コワ、あいつの水道にやられたら
こちらがイチコロだ
何だか今日は夢にうなされそうだ
〇昨日、洗足池を散歩中にカルガモとアオダイショウに出会った。それをもとにしたお話だ。
「お前らはな、歴史を知らないでそんなこと言っているのだ」
「日蓮が足を洗った洗足池……」
誰かが言った。
「ああ、そんな袈裟掛け松伝説は、どこにでもある。おれはふんどし掛け松があれば信ずるがな。な、そんなことよりも君ら、ここのビックな伝説は知らないだろう、ビックでびっくりだ……」
おいさん缶酎ハイの残りをごくごく飲んだ。
「いいか、ここのすぐ近くに大岡山があるだろう、そこに摺鉢山があったんだ、これの東側には狢窪があった。摺鉢山に右足、狢窪に左足を置いてダイダラボッチが立った。なんとあろうことかマラを出してしょうべんをしたんだよ。どぼどぼどぼと出して、それでこの洗足池ができたんだな……」
「へぇ知らない、初めて聞いた」
「もっと驚くことがあるぞ、そのときになダイダラボッチは東京湾に手を伸ばして土をすくい取って、西の方に積み上げた、それが富士山となったんだぞ！」
「驚き、桃の木、ダイダラボッチ……」と少年、が、後はみんなカルガモ親子を見ながらポカンとしている。
「あ、ヘビがとびかかるぞ！、やばい！」
「カルガモ逃げろ、カルガモ逃げろ！」
大人もこどももカルガモコール。
「ツバキを飛ばすな」
例のおっさん。
「カルガモが生きるか死ぬかというときに『ツバキを飛ばすな』はないじゃないですか」
これは花模様のマスクおばさん。
（三）
「おい、もぐったぜ、いよいよ襲いかかるんだ！」
みんな身を乗り出して固唾を呑む。
「飛び出たぞ！」
アオダイショウが母鳥の前に現れた。
「ヤバいぞ！」
「やめれ、アオダイショウ」
「がんばれ、カルガモ！」
一斉にカルガモコールが起こる。
と、そのときだ、水面から急に母鳥の前に躍り出た。見物人は息をのむ。と、アオダイショウが何かを吐き出した。
「オタマジャクシだ！」
そういうか言わないかというときに親鳥がパクリとそれを食べた。そして何でもないというふうに小ガモたちを先導していく。
そのカルガモたち、やがて、木柵の間をすり抜けて広い池に出た。小ガモたちもゆうゆうと泳いで行く。
するとアオダイショウ、への字くの字になって岸辺に引き返していく。
「な、言ったろう、アオダイショウはカモをカマっていたんだ」
おいさんは得意そうだ。
「なんだ、終わりか」
「そうそうゲームオーバー」
少年が終わりを告げる。
コロナコロコロ
カルガモピチャピチャ
アオダイショウはへの字くの字
ダイダラボッチはドボドボ
オイ、ダイダラボッチだ！
上を見るとでっかいマラ
コワ、あいつの水道にやられたら
こちらがイチコロだ
何だか今日は夢にうなされそうだ
〇昨日、洗足池を散歩中にカルガモとアオダイショウに出会った。それをもとにしたお話だ。
