2020年05月17日
下北沢Ｘ物語（4005）―満州平台第２３教育飛行隊―
（一）戦時中世田谷から七校の学校が松本市外浅間温泉に疎開した。その最中の昭和２０年３月に陸軍松本飛行場に特攻隊が飛来してきた。２月１０日に満州新京にて編成された特攻四隊のうち二隊、と号第三十一飛行隊（武揚隊）、と号第三十二飛行隊（武剋隊）である。各隊十五名、全三十名は浅間温泉に分宿した。このときに温泉に疎開していた疎開学童と一緒になった。この彼等は満州平台の第２３教育飛行隊から選抜された特攻兵だった。つい最近、知覧特攻平和会館の学芸員の八巻聡氏が紀要２号を送ってくださった。氏は「資料紹介 猪瀬弘之少尉が遺した軍事郵便」という論考を書いておられる。この猪瀬少尉は満州平台の第２３教育飛行隊に所属していた。特攻二隊と同じ教育飛行隊だ。八巻氏の論考を読んでこの教育飛行隊の大戦末期における位置づけを知ったことである。
今年は戦後７５年となる、が、昨今のコロナ禍でこのことも忘れられつつある。毎年５月に開催してきたのは「戦争経験を伝承する会」である。２３日にカトリック世田谷教会で開く予定だった。タイトルは、「ヒロシマを語る」だった。が、コロナ禍の影響で中止してしまった。人が集まって催し物をするこれができなくなった。伝承は集まってこそできた。これができないとなると新しい形態の伝承を考えねばならぬ。テレワークがはやりだが、戦争をネットで伝える「テレ伝承」という方策もあるのではないか。
特別攻撃隊の隊員と世田谷から疎開してきた疎開学童とが一月余り一緒の生活をしていた。このことを知ったのは偶然からである。特攻隊についても疎開についてもこの歴史はよく知らなかった。謎だらけだった。が、当時の疎開経験者を捜し当て、多くの人から話を聞いた。
「私は、浅間温泉の千代の湯にいて、特攻隊の今西修軍曹にお歌を書いていただきました。黄色い布に書かれています。これは満州国皇帝溥儀から戴いた恩賜の煙草を包んでいた布です……」
渋谷の日赤病院に入院していた立川裕子さんからこの話を聞かされた。この時は何も知らなくてすべてが謎であった。なぜに満州国皇帝の溥儀からもらった煙草を持っているのか？……後にこの恩賜の煙草を包んだ黄色い布は、方々で出てくきた。昨年、知覧特攻平和会館に行ったとき展示品の一つにこれがあった。
大きな疑問は、特別攻撃隊の隊員がなぜに長野県の飛行場まで飛んで来たのか？当初はさっぱり分からなかった。が、このことが徐々に分かってくる。内地で飛行訓練を受けていた若者は満州に渡った。この経緯もよく分からなかった。
（二）
先に満州新京で発足した特攻四隊のことを述べた。この一隊が、と号第四十一飛行隊（扶揺隊）である。これに所属していた元特攻兵の久貫兼資軍曹に取材をしたことがある。
「久貫さんはいわゆる仙台航養の十四期生ですね、同期の方々は多くが特攻で亡くなっておられますね、久貫さんも航養を出て満州に渡っておられますが、どうして行かれたのですか？」
「もう本土には、飛行機がほとんどなかった。あったとしても燃料がなかった。ところが満州には飛行機が残っていた。燃料もあった」
久貫兼資さんの場合は、平安鎮にある第二十四教育隊へ行った。
仙台航空機乗員養成所を昭和１９年７月に卒業した十四期生は、「八月一日、満州第二航空軍某教育飛行隊に入隊すべく、出発日は七月二四日、仙台駅発十時、臨時軍用列車と定められた」（『憧れた空の果てに』 菅井薫 鳥影社 一九九九年刊）、久貫兼資さんらは鉄道を使って満州に向かい、大陸へは下関から関釜連絡船で渡った。
航空機乗員養成所を終えると、兵科ごとに分かれる。それは戦闘、軽爆、重爆、襲撃だ。久貫さんは戦闘だった。当然のことながら各科によって飛行機が異なる。「襲撃」という場合は機種としては九九式襲撃機となる。
昭和十九年十二月四日、戦闘隊と襲撃隊とが転属の途中にばったりと白城子駅で出会う。
待合室は賑わいを越して歓声を挙げる騒音に変わった。何と彼等は仙台養成所を卒業して別れて以来の同期の連中であった。奇遇だ、彼等は熊本県菊池の襲撃部隊に入隊した面々で（あった）
（『憧れた空の果てに』 菅井薫 鳥影社 一九九九年刊）
仙台航養を卒業した後、戦闘と襲撃は、それぞれに別れて任地に赴いた。襲撃隊は熊本県菊池飛行場にある第三〇教育飛行隊に行った。十二月になって満州に彼等は転属してきた。『憧れた空の果てに』ではこう記録している。
第二三教育飛行隊（第一五三五三部隊）平台飛行場への転属者名、襲撃機部隊三十名。
発令、第三〇教育飛行隊（西部第一〇四部隊）熊本県菊池飛行場
菊池飛行場から満州平台の第二三教育飛行隊に転属になった者の氏名がここに記録されている。八巻氏が記しておられる第一〇三振武隊と特攻二隊、誠第三一飛行隊（武揚隊）と誠第三二飛行隊（武剋隊）に関わる氏名をのみを記す。
◎海老根重治（誠第三一飛行隊）◎猪瀬弘之（第一〇二振武隊）◎大平定雄（誠第三二飛行隊）◎柄沢甲子夫（誠第三一飛行隊）◎古関真二（第一〇二振武隊）◎五来末義（誠第三一飛行隊）◎今野勝郎（誠第三二飛行隊）◎島田貫三（誠第三二飛行隊）◎出戸栄吉（誠第三二飛行隊）◎原田甲子（第一〇二振武隊）・吉原香（誠第三一飛行隊）◎今西修 京都（誠第三二飛行隊）◎時枝宏 米子（誠第三二飛行隊）
・注１、名簿には三〇名が載っているがここでは関係する十三名のみを載せた。
２、◎は特攻戦死者を表す。海老根重信伍長は台湾に向かう途中、敵機に遭遇し交戦戦死した。
「鉛筆部隊と特攻隊」に関わる者は六名である。大平定雄伍長、今野勝郎軍曹、島田貫三軍曹、出戸栄吉軍曹、今西修軍曹、時枝宏軍曹だ。大平、今野、島田、出戸は仙台航養を出て菊池の襲撃隊に入ったということだ。今西は京都航養、時枝は米子航養を出て菊池へ行った。いずれも航空養成所第十四期生である。
（三）
満州国の第二三教育飛行隊は平台にあった。訓練は襲撃専門で機種としては九九式襲撃機を用いていた。特攻二隊、武剋隊、武揚隊は陸軍松本飛行場に三十機で飛来してきたがその機種は九九式襲撃機である。
今回、八巻氏から送られてきたのは、「弘瀬弘之少尉が遺した軍事郵便」である。その弘瀬少尉の略歴についてはこう記されている。
昭和十八年十月、印旛地方航空機乗員養成所に入所し地上準備教育を受け、昭和十九年四月からは仙台陸軍飛行学校 霞目分教所で基本操縦教育を受け、操縦士の免許を取得。戦況の悪化により軍に編入され第三十教育飛行隊に配属された。
軍の教育飛行隊で敵地への超低空爆撃、急降下爆撃を任務とする襲撃機を操り、戦闘要員としての訓練を積んだ。
満州で錬成教育をしている中、と号要員（特攻隊員）となり、昭和二十年四月十二日、鹿児島県の万世飛行場から出撃し沖縄周辺洋上で戦死した。
弘瀬少尉の隊は、満州の第二航空軍で編成された。好魔隊と命名されている。
平台では第一、第二、第三好魔隊として錬成教育を受けていた。各隊十五名だ、すると単純計算すると四十五機となる。先に武剋隊と武揚隊は飛び発っているが機は三十機だ、合わせると六十機となる。平台飛行場に九九式襲撃機が有り余っていたことになる。驚きだった。
（写真は、知覧特攻平和会館から送られてきたチラシ）
先に満州新京で発足した特攻四隊のことを述べた。この一隊が、と号第四十一飛行隊（扶揺隊）である。これに所属していた元特攻兵の久貫兼資軍曹に取材をしたことがある。
「久貫さんはいわゆる仙台航養の十四期生ですね、同期の方々は多くが特攻で亡くなっておられますね、久貫さんも航養を出て満州に渡っておられますが、どうして行かれたのですか？」
「もう本土には、飛行機がほとんどなかった。あったとしても燃料がなかった。ところが満州には飛行機が残っていた。燃料もあった」
久貫兼資さんの場合は、平安鎮にある第二十四教育隊へ行った。
仙台航空機乗員養成所を昭和１９年７月に卒業した十四期生は、「八月一日、満州第二航空軍某教育飛行隊に入隊すべく、出発日は七月二四日、仙台駅発十時、臨時軍用列車と定められた」（『憧れた空の果てに』 菅井薫 鳥影社 一九九九年刊）、久貫兼資さんらは鉄道を使って満州に向かい、大陸へは下関から関釜連絡船で渡った。
航空機乗員養成所を終えると、兵科ごとに分かれる。それは戦闘、軽爆、重爆、襲撃だ。久貫さんは戦闘だった。当然のことながら各科によって飛行機が異なる。「襲撃」という場合は機種としては九九式襲撃機となる。
昭和十九年十二月四日、戦闘隊と襲撃隊とが転属の途中にばったりと白城子駅で出会う。
待合室は賑わいを越して歓声を挙げる騒音に変わった。何と彼等は仙台養成所を卒業して別れて以来の同期の連中であった。奇遇だ、彼等は熊本県菊池の襲撃部隊に入隊した面々で（あった）
（『憧れた空の果てに』 菅井薫 鳥影社 一九九九年刊）
仙台航養を卒業した後、戦闘と襲撃は、それぞれに別れて任地に赴いた。襲撃隊は熊本県菊池飛行場にある第三〇教育飛行隊に行った。十二月になって満州に彼等は転属してきた。『憧れた空の果てに』ではこう記録している。
第二三教育飛行隊（第一五三五三部隊）平台飛行場への転属者名、襲撃機部隊三十名。
発令、第三〇教育飛行隊（西部第一〇四部隊）熊本県菊池飛行場
菊池飛行場から満州平台の第二三教育飛行隊に転属になった者の氏名がここに記録されている。八巻氏が記しておられる第一〇三振武隊と特攻二隊、誠第三一飛行隊（武揚隊）と誠第三二飛行隊（武剋隊）に関わる氏名をのみを記す。
◎海老根重治（誠第三一飛行隊）◎猪瀬弘之（第一〇二振武隊）◎大平定雄（誠第三二飛行隊）◎柄沢甲子夫（誠第三一飛行隊）◎古関真二（第一〇二振武隊）◎五来末義（誠第三一飛行隊）◎今野勝郎（誠第三二飛行隊）◎島田貫三（誠第三二飛行隊）◎出戸栄吉（誠第三二飛行隊）◎原田甲子（第一〇二振武隊）・吉原香（誠第三一飛行隊）◎今西修 京都（誠第三二飛行隊）◎時枝宏 米子（誠第三二飛行隊）
・注１、名簿には三〇名が載っているがここでは関係する十三名のみを載せた。
２、◎は特攻戦死者を表す。海老根重信伍長は台湾に向かう途中、敵機に遭遇し交戦戦死した。
「鉛筆部隊と特攻隊」に関わる者は六名である。大平定雄伍長、今野勝郎軍曹、島田貫三軍曹、出戸栄吉軍曹、今西修軍曹、時枝宏軍曹だ。大平、今野、島田、出戸は仙台航養を出て菊池の襲撃隊に入ったということだ。今西は京都航養、時枝は米子航養を出て菊池へ行った。いずれも航空養成所第十四期生である。
（三）
満州国の第二三教育飛行隊は平台にあった。訓練は襲撃専門で機種としては九九式襲撃機を用いていた。特攻二隊、武剋隊、武揚隊は陸軍松本飛行場に三十機で飛来してきたがその機種は九九式襲撃機である。
今回、八巻氏から送られてきたのは、「弘瀬弘之少尉が遺した軍事郵便」である。その弘瀬少尉の略歴についてはこう記されている。
昭和十八年十月、印旛地方航空機乗員養成所に入所し地上準備教育を受け、昭和十九年四月からは仙台陸軍飛行学校 霞目分教所で基本操縦教育を受け、操縦士の免許を取得。戦況の悪化により軍に編入され第三十教育飛行隊に配属された。
軍の教育飛行隊で敵地への超低空爆撃、急降下爆撃を任務とする襲撃機を操り、戦闘要員としての訓練を積んだ。
満州で錬成教育をしている中、と号要員（特攻隊員）となり、昭和二十年四月十二日、鹿児島県の万世飛行場から出撃し沖縄周辺洋上で戦死した。
弘瀬少尉の隊は、満州の第二航空軍で編成された。好魔隊と命名されている。
平台では第一、第二、第三好魔隊として錬成教育を受けていた。各隊十五名だ、すると単純計算すると四十五機となる。先に武剋隊と武揚隊は飛び発っているが機は三十機だ、合わせると六十機となる。平台飛行場に九九式襲撃機が有り余っていたことになる。驚きだった。
（写真は、知覧特攻平和会館から送られてきたチラシ）
