2020年08月18日
下北沢Ｘ物語（4067）―北沢・代田でウオッチした「東京空襲」―
（一）常に重宝している本がある、「日本空襲記」と「東京空襲」だ、ともに一色次郎が書いたものだ。後者は前者のダイジェスト版である。一色次郎は世田谷区北沢一丁目一一一三番地静仙閣に居住していた。小田急線下北沢二号、三号踏切の北側にあったアパートだ。線路から近いことで昭和二十年三月末に彼は強制疎開させられている。そして世田谷区代田二ノ八二三番地の西の丸荘へ転居している。彼は昭和十九年から二十年までの空襲に関して克明に記録している。日記形式で書かれているので便利だ。当地一帯に何時空襲があったかはこれによって分かる。「湯の花トンネル列車銃撃事件」から戦闘機の飛来状況について調べたが、一色次郎の「東京空襲」で容易にチェックできる。勝れた作品だ、「連日連夜の猛爆に曝された、東京の空の下、家族の葛藤と、スパイ容疑の恐怖と闘いながら、空襲の記録を文化遺産として書き残した、唯一のドキュメンタリー。戦争文学の記念碑的傑作」と紹介されている。
戦争について古老から話を聞いてきた、その中で「カンサイキ」という言葉がよく出てきた。艦載機である。いわゆる航空母艦から発進した戦闘機のことを言う。
「下北沢駅の帝都線のガード、二子道の上を走っている鉄橋があるだろう。あの橋脚の西側の所に銃弾痕がくっきりと残っている。あれはな、カンサイキによるものだ」
この話、有名だった。同じことを他の人からも聞いた。
このことを調べ写真に撮ってブログに載せたところ、たちまちに銃弾痕はコンクリートで塗り固められてしまった。もうだいぶ前のことだ。
古老はアメリカの戦闘機を「カンサイキ」と呼び習わしていた。が、戦争末期になると陸上から飛び発った戦闘機が飛来してくるようになった。この辺りのことは「東京空襲」丹念に記している。これを読むと記録がいかに大事かがわかる。
この一帯の空襲を記録したものとして「海野十三敗戦日記」がある。彼は若林に住んでいて「空襲都日記」を記している。こちらは大本営発表に沿っていて、記録としては怪しい。が、一色次郎のには批評性、客観性がある。
彼は西日本新聞の記者である。行った先で取材し、人の話を聞いてくる。記事にするわけはないが日記には書き残している。昭和二十年五月七日の記述には辛辣な記述が書き記されている。
世界第一の工業国を相手に起こす戦争にしては、政府の準備は無能に近かった。自分から先に相手をひっぱたいておいて、そして負ける。なんというだらしない国だろう。
（二）
B29と戦闘機とが来襲してくることを「戦爆連合」と称した。艦載機を伴った最初の来襲が昭和20年2月25日だった。つぎの戦爆連合は４月７日だ、このときに硫黄島から進発したP-51ムスタング30機を伴ってやってきた。このときは中島飛行機目標にしていた。
空襲、午前十時、B29百二十機。航空母艦でなく、硫黄島から飛び発った戦闘機が、初めて東京空襲に参加した。P51三十機 「日本空襲記」
一色次郎が住んでいた代田西の丸荘は丘上にある。
西の丸荘は西向きである。モルタルづくりの白い二階建てが、ふた棟一直線に並んで建っている。西側に小川が流れていて、駅へ向かう道路は、アパートの南がわから、この小川の橋を渡っていくようになっていた。川が窪地を流れているので、道路は短い区間だが、橋を中心にして、一度下がってから、また上がる。私どもの部屋は、その短い坂に面した階下にあった。ふたむね合わせて、二十世帯ばかり住んでいる。
この付近は、東京都内では、土地の高度がもっとも高い所である。上野や愛宕山より、この街は高い地点にあった。南側は一面畑地なので、鶴見・川崎方面の空はよく見えた。けれども小田急の土手へ上がった時のように、旧市街の空はよく見えなかった。（同著）
西の丸荘は空襲では焼けなかった。それで昭和２２年の航空写真では建物が確認できる。ここで出てくる小川は北沢川の支流である。下って根津山の縁を巻いて梅丘で本流に合流している。
筆者が言いたかったことは西の丸荘が高台にあることだ。彼は日々空襲の様子を記録していた。そのことから空がよく見えるところを欲していた。その点西の丸荘は好都合だった。が、西は見えても都心方向が見えないこれが不満だった。小田急の土手は静仙閣の裏手にある築堤のことだ。東京空襲のとき彼はここから下町の空襲を観望した。
（三）
P-51を初めて伴ってB29は４月７日にやってきた。西の丸荘から彼はこの様子を見ていた。視界に八機のB29が見えた。
編隊の右側面が、私たちの視界いっぱいに見事にひろがったとき、先頭の一機が高射砲の直撃弾を受けて空中分解した。五つの火の玉になって、畑地へ落ちる。三番目も発動機から火を噴いた。けれどもこれは、黒い煙のリボンを引きながら編隊についていく。（同著）
この日、近くで落ちたB29は二機ある。一機は国領、調布市国領町４丁目に墜ちたものだ。もう一機は、杉並区久我山４丁目４２番地墜ちている。さてどちらの機なのか。
B29と戦闘機とが来襲してくることを「戦爆連合」と称した。艦載機を伴った最初の来襲が昭和20年2月25日だった。つぎの戦爆連合は４月７日だ、このときに硫黄島から進発したP-51ムスタング30機を伴ってやってきた。このときは中島飛行機目標にしていた。
空襲、午前十時、B29百二十機。航空母艦でなく、硫黄島から飛び発った戦闘機が、初めて東京空襲に参加した。P51三十機 「日本空襲記」
一色次郎が住んでいた代田西の丸荘は丘上にある。
西の丸荘は西向きである。モルタルづくりの白い二階建てが、ふた棟一直線に並んで建っている。西側に小川が流れていて、駅へ向かう道路は、アパートの南がわから、この小川の橋を渡っていくようになっていた。川が窪地を流れているので、道路は短い区間だが、橋を中心にして、一度下がってから、また上がる。私どもの部屋は、その短い坂に面した階下にあった。ふたむね合わせて、二十世帯ばかり住んでいる。
この付近は、東京都内では、土地の高度がもっとも高い所である。上野や愛宕山より、この街は高い地点にあった。南側は一面畑地なので、鶴見・川崎方面の空はよく見えた。けれども小田急の土手へ上がった時のように、旧市街の空はよく見えなかった。（同著）
西の丸荘は空襲では焼けなかった。それで昭和２２年の航空写真では建物が確認できる。ここで出てくる小川は北沢川の支流である。下って根津山の縁を巻いて梅丘で本流に合流している。
筆者が言いたかったことは西の丸荘が高台にあることだ。彼は日々空襲の様子を記録していた。そのことから空がよく見えるところを欲していた。その点西の丸荘は好都合だった。が、西は見えても都心方向が見えないこれが不満だった。小田急の土手は静仙閣の裏手にある築堤のことだ。東京空襲のとき彼はここから下町の空襲を観望した。
（三）
P-51を初めて伴ってB29は４月７日にやってきた。西の丸荘から彼はこの様子を見ていた。視界に八機のB29が見えた。
編隊の右側面が、私たちの視界いっぱいに見事にひろがったとき、先頭の一機が高射砲の直撃弾を受けて空中分解した。五つの火の玉になって、畑地へ落ちる。三番目も発動機から火を噴いた。けれどもこれは、黒い煙のリボンを引きながら編隊についていく。（同著）
この日、近くで落ちたB29は二機ある。一機は国領、調布市国領町４丁目に墜ちたものだ。もう一機は、杉並区久我山４丁目４２番地墜ちている。さてどちらの機なのか。
この記事へのコメント
3. Posted by 大槻 統 2020年08月20日 17:46
きむら様、
早々に対応してくださり有難うございました。
長いこと訪れておりませんが、第一師範の下馬校舎とは懐かしいですね。
75年前の11月、集団疎開から帰っきて見たのはあの鉄筋コンクリートの校舎
正面にムスタングによる機銃掃射の跡があり、長いこと残っていました。
師範の木造寄宿舎は焼け落ち、煙突だけがポツンと残っており、構内には焼夷弾の筒があちこちに転がっていたことを思い出します。
猛暑とコロナ騒ぎで厳しい日々ですが、お元気で毎日のご活躍を続けられることをお祈り申し上げます。有難うございます。
大槻
早々に対応してくださり有難うございました。
長いこと訪れておりませんが、第一師範の下馬校舎とは懐かしいですね。
75年前の11月、集団疎開から帰っきて見たのはあの鉄筋コンクリートの校舎
正面にムスタングによる機銃掃射の跡があり、長いこと残っていました。
師範の木造寄宿舎は焼け落ち、煙突だけがポツンと残っており、構内には焼夷弾の筒があちこちに転がっていたことを思い出します。
猛暑とコロナ騒ぎで厳しい日々ですが、お元気で毎日のご活躍を続けられることをお祈り申し上げます。有難うございます。
大槻
2. Posted by きむらけん 2020年08月20日 07:41
>>1大槻統さま こんにちは、ご無沙汰いたしております。
「艦爆連合」について原典を確認しました。ご指摘のとおり、「戦爆連合」となっております。私の転記ミスです。
そうですね、間違いはきちんと正しておかなくてはなりませんね。
先だって「東京大空襲・戦災誌」に駒沢高射砲陣地に兵員としていた人の証言がありました。
中隊長はB29には弾は当たらなかったと言っていましたが。隊員は当たったと証言しています。
散歩でこのごろは第一師範跡をよく通ります。附属小のあったところは公園になっています。ここを通る度に大槻さんを思い出します。
「艦爆連合」について原典を確認しました。ご指摘のとおり、「戦爆連合」となっております。私の転記ミスです。
そうですね、間違いはきちんと正しておかなくてはなりませんね。
先だって「東京大空襲・戦災誌」に駒沢高射砲陣地に兵員としていた人の証言がありました。
中隊長はB29には弾は当たらなかったと言っていましたが。隊員は当たったと証言しています。
散歩でこのごろは第一師範跡をよく通ります。附属小のあったところは公園になっています。ここを通る度に大槻さんを思い出します。
1. Posted by 大槻 統 2020年08月20日 01:17
きむら けん 様
ご無沙汰申し上げております。
大槻 統（はじめ）です。
毎朝きむら様のブログを楽しく拝見して一日が始まります。
今回の記事で「艦爆連合」の文字に接し「戦爆連合」の間違いではないかと思い、メールを差し上げます。
爆撃機を護衛し、且つ戦闘機による銃撃などを行うのが
「戦爆連合」かと思いますが、「艦爆連合」という言葉は聞いたことが無く、歴史を正しく語る上でご確認いただきたく存じます。
「艦」とは艦載機の「艦」であれば誤解を生む可能性もあり
ご確認いただければ幸いです。
指揮系統も異なるあの時代の米国海軍の艦載機と同陸軍の爆撃機による共同作戦（空襲）がおこなわれたのか？
但し１９４２．４．１８のドウリットルによる日本初空襲は
特別かと思いますが・・。
艦載機と云えど艦上戦闘機（艦戦）、艦上爆撃機（艦爆）、艦上攻撃機（艦攻）・・・など多様です。
1945年2月17日（？）、私は駒沢高射砲陣地を襲撃するカーチス・ヘルダイバー（艦爆）を見ています。
軍用機は「戦闘機」、軍艦は「戦艦」などと発言する大臣などもでる世の中になりましたが、あの当時を体験した世代の一人として非常に違和感を覚えます。
勝手なことを申し上げましたがご無礼をお許しください。
以上
ご無沙汰申し上げております。
大槻 統（はじめ）です。
毎朝きむら様のブログを楽しく拝見して一日が始まります。
今回の記事で「艦爆連合」の文字に接し「戦爆連合」の間違いではないかと思い、メールを差し上げます。
爆撃機を護衛し、且つ戦闘機による銃撃などを行うのが
「戦爆連合」かと思いますが、「艦爆連合」という言葉は聞いたことが無く、歴史を正しく語る上でご確認いただきたく存じます。
「艦」とは艦載機の「艦」であれば誤解を生む可能性もあり
ご確認いただければ幸いです。
指揮系統も異なるあの時代の米国海軍の艦載機と同陸軍の爆撃機による共同作戦（空襲）がおこなわれたのか？
但し１９４２．４．１８のドウリットルによる日本初空襲は
特別かと思いますが・・。
艦載機と云えど艦上戦闘機（艦戦）、艦上爆撃機（艦爆）、艦上攻撃機（艦攻）・・・など多様です。
1945年2月17日（？）、私は駒沢高射砲陣地を襲撃するカーチス・ヘルダイバー（艦爆）を見ています。
軍用機は「戦闘機」、軍艦は「戦艦」などと発言する大臣などもでる世の中になりましたが、あの当時を体験した世代の一人として非常に違和感を覚えます。
勝手なことを申し上げましたがご無礼をお許しください。
以上
