2020年08月19日
下北沢Ｘ物語（4068）―北沢・代田でウオッチした「東京空襲」２―
（一）人間の記憶ほど当てにならないものはない。が、記録はその人間の欠陥を補うものだ。一色次郎は北沢と代田に居住し克明に東京空襲の記録を書いた。単にこれが大事だというのではなく経過にこそ意味がある。昭和16年12月8日は開戦記念日だ、戦果を誇る新聞は「米太平洋艦隊は全滅せり」と誇らしげに告げる。言えば間違いの一歩だ、時が経って昭和19年11月1日に高高度を飛ぶB29の姿が目撃され、東京は騒然となった。真珠湾は奇襲攻撃だ。が、敵は正反対、戦略を練っての計画攻撃をした。B29の東京初見参は大きな意味があった。この機は偵察型F-13のB-29トウキョウローズは攻撃目標である東京の詳細写真を撮った。これを元に敵は緻密な作戦を練った。
真珠湾攻撃に参加した人の話を聞いたことがある。彼は二式大艇の乗組員だった。マーシャル群島ウオッゼ島を出発してパールハーバーに向かう。「そのときの燃料補給はバケツリレーでした」と渡辺さんは語った。真珠湾攻撃は、出たとこ勝負だ、綿密な計画性はなかった。
11月1日にやってきた東京ローズは、何千枚という写真を撮った。首都東京を叩くための情報収集だった。
一方、やられた側の一色次郎の観察も詳細を極めている。記録をしっかりと取っている。
来襲機数
来襲時刻
来襲日数
来襲曜日
投弾回数
大本営の諜報員たちよりも綿密だ。これらをもとに彼は分析している。その「結論」を二点に亘って要約している。その（一）である。
来襲の大部分が、夜間を選んでいる点に注目しなければならぬ。これは夜から払暁にかけて本土の気象状況を基地に打電し、基地ではその日その日の綿密な気象図を作成して次の編隊爆撃を容易にする意図であり、また搭乗員を夜間航法に熟達せしめるとともに、本土出撃の体験を集積して飛行条件の確立を編み出し、夜間大挙爆撃に資せんとしているものと思われる。 「日本空襲記」一色次郎 文和書房 昭和四七年刊
鋭い指摘だ。感心したことは空襲の経過から敵の戦略を見抜いていることだ。
3月10日は、いわゆる「東京大空襲」である。日本の真珠湾攻撃のように一発勝負ではない。前年からの空襲経験を踏まえての言ってみれば集大成である。
なるほど、戦争とは何かノウハウを獲得することである、と一色次郎は教えてくれる。
（二）
一色次郎は、さらに分析をする。
かりに二百十六回の出撃にあたり、毎回搭乗員を交替させたとすれば、一機の搭乗員を十一名とみて二千三百七十六名は、すでに本土夜間空襲の経験者となるわけで、これらが回数を重ねることによって編隊の誘導機に乗り込むことも予想され、かくみれば夜間大空襲も現実味を帯びてくるのである。
敵に取って戦争の経過は大事だった。一回一回の空襲は情報収集だった。ここから得られた情報をもとに東京の空襲計画を練った。まずは木密地区を焼き払う、それが東京空襲である。これを終えて首都の首根っこを襲う、これが山手空襲である。
その（二）の冒頭だ。
敵機の来襲間隔が、非常に接近してきたことも見逃しえない。この傾向は二月以降とくに顕著となっており……
一色次郎は単に記録するだけでなく分析を行っている。その分析を通して大空襲を予想している。そしてその予想は当たっている。東京空襲があり、山手空襲があった。
アメリカ軍の戦略は緻密であった。それは兵員、兵士に犠牲を出したくないからであった。物量が豊かな米軍は兵を大事にした。B29には給湯器があって、乗員は珈琲か紅茶を選択することができた、この例からもわかる。
味方は兵員を大事にしようという考えはなかった。戦争をする以上、兵が死ぬことは当たり前という考えがあった。
前に古参の弁護士と会って話したとき、「日本には人権という意識が皆無だったんだよ。今だって同じなんだよ！」と彼は言っていた。
（三）
さて昨日の問題だ、昭和20年4月7日、近隣でB29が二機墜落した。一機は国領に、もう一機は久我山だ。一色次郎は代田西の丸荘からこれを見ていた。
久我山までは直線で6、6キロ、国領までは9、1キロだ。近い方の久我山に墜ちたB29ではないかと思う。「畑地に落ちた」という国領の畑地までは見えないのではないかと思った。
国領のB29は自分でも何度も行ったことだ。が、久我山は調べていない。後者の情報は少ない。さて、一色次郎が代田で目撃したB29はどちらだろうか？
（写真は、いのはなトンネル列車銃撃慰霊碑のそばを通る下りのあずさ号）
一色次郎は、さらに分析をする。
かりに二百十六回の出撃にあたり、毎回搭乗員を交替させたとすれば、一機の搭乗員を十一名とみて二千三百七十六名は、すでに本土夜間空襲の経験者となるわけで、これらが回数を重ねることによって編隊の誘導機に乗り込むことも予想され、かくみれば夜間大空襲も現実味を帯びてくるのである。
敵に取って戦争の経過は大事だった。一回一回の空襲は情報収集だった。ここから得られた情報をもとに東京の空襲計画を練った。まずは木密地区を焼き払う、それが東京空襲である。これを終えて首都の首根っこを襲う、これが山手空襲である。
その（二）の冒頭だ。
敵機の来襲間隔が、非常に接近してきたことも見逃しえない。この傾向は二月以降とくに顕著となっており……
一色次郎は単に記録するだけでなく分析を行っている。その分析を通して大空襲を予想している。そしてその予想は当たっている。東京空襲があり、山手空襲があった。
アメリカ軍の戦略は緻密であった。それは兵員、兵士に犠牲を出したくないからであった。物量が豊かな米軍は兵を大事にした。B29には給湯器があって、乗員は珈琲か紅茶を選択することができた、この例からもわかる。
味方は兵員を大事にしようという考えはなかった。戦争をする以上、兵が死ぬことは当たり前という考えがあった。
前に古参の弁護士と会って話したとき、「日本には人権という意識が皆無だったんだよ。今だって同じなんだよ！」と彼は言っていた。
（三）
さて昨日の問題だ、昭和20年4月7日、近隣でB29が二機墜落した。一機は国領に、もう一機は久我山だ。一色次郎は代田西の丸荘からこれを見ていた。
久我山までは直線で6、6キロ、国領までは9、1キロだ。近い方の久我山に墜ちたB29ではないかと思う。「畑地に落ちた」という国領の畑地までは見えないのではないかと思った。
国領のB29は自分でも何度も行ったことだ。が、久我山は調べていない。後者の情報は少ない。さて、一色次郎が代田で目撃したB29はどちらだろうか？
（写真は、いのはなトンネル列車銃撃慰霊碑のそばを通る下りのあずさ号）
