2021年10月05日

下北沢X物語(4340)―松本飛行場飛来特攻機の謎 上―

武揚隊飯沼伍長田川小にて
(一)近代戦争史の謎だ。沖縄戦たけなわの1945年3、4月頃、浅間温泉には相当数の特攻隊員が滞在していた。この時、世田谷から学童が疎開していた。代沢校、東大原校、山崎校、駒繋校、二子玉川校である、当時旅館に居合わせた学童らから取材をしてこの事実を知った。一体、彼らはどこの何隊なのか?調査して分かったのは二隊のみだ、誠第三十一、誠第三十二飛行隊である。他は不明だが、辛うじて聞き知っているのは浜松の重爆隊、それと学童のメモにあった「振武隊」だ。第六航空軍の隊であることは分かる。全貌はまだ謎だ、つい最近偶然に分かったのは第五航空軍所属の特攻隊が来ていたことだ。これによって飛来の謎が解けてきた、キーワードは、「爆装改修」である。

 誠第三十一飛行隊の飯沼芳雄伍長(写真)は松本市出身の特攻隊員である。彼の隊は満州新京で二月十日に発足した。ここを飛び発ち、内地に戻ってきた。当初は各務原へ行くはずだったが、計画が変更になって松本へやってきた。思いがけない帰郷だ。彼は喜びのあまり松本渚の家の上空を超低空で旋回した。息子が浅間温泉に宿泊していると聞きつけた母親は好物のぼたもちを作って持って行った。彼は「うまいうまい」と言ってたらふく食ったという。

 彼が所属する隊は武揚隊、この後、松本を飛び立ち、九州新田原まで行く。ここで誠隊の本拠地の台湾まで行けと命令される。済州島、上海、杭州と回ってようやく台湾に着いた。ところが途中多くの仲間を失ってしまう。

 原因の一つが戦闘機だ。九九式襲撃機だ、ノモンハン事件当時に作られたもので中古機だ、足が遅くて重い、それで途中敵機に遭遇して三機が撃ち落とされる。他機も故障を起こしたり、不時着したりもして、かろうじて8人が台湾に辿り着いた。

 飯沼伍長は台湾では待機した。五ヶ月待ってようやく7月19日に出撃をした。このときに彼は記者からの取材を受けている。それが終わって彼は財布を記者に託した。飛機献金である。新しい飛行機を造るのに使ってくれと。飯沼伍長は出撃するが目的は完遂できなかった。宮古島の崖にぶつかって戦死した。

 記者は、国民に向けて「入魂の特攻機を送れ」と訴えた。特攻機は最後に所属した隊で受け取る。新鋭機か中古機かというと、後者になる。九九式襲撃機は特攻隊員を最も多く運んだ機だ。「空飛ぶ棺桶」とも密かに言われた。



(二)
 新京から内地になぜ飛んで来たか?これは爆装改修のためだ。つまり特攻機用に改造するためだ。両翼に250キロ爆弾を吊り下げて行く。ボロボロの中古機にこれを乗せる。そのためには機を軽くしなくてはならない。重い部材を取り払う必要があった。

 これはどこでもここでもできない。航空工廠で行う。当初、 計画では特攻二隊、武剋隊と武揚隊は各務原で行う予定だった。が、当地に着いたのは、20年3月である。既に制空権は敵にあった。中京地区はB29によって空襲を受けていた。

  今までは「広森隊長は、長野の松本飛行場で爆装する決心をされ」(『開門岳』飯尾憲士)たと言われていたことが通説だった。が、先の「第五航空軍」の機も爆装のため同じ頃に松本に来ていることから隊長の判断ではなく軍の指示によって行かされたと考えてよい。同じ行動をとったのが兄弟隊の武揚隊である。

 「第五航空軍」から三月中旬に松本に飛来してきた特攻機がある。これは爆装改修のためである。が、具体的な機数は記録されていない。機は復座だ、後部に整備員を乗せていたようである。

機は平壌に戻ってから隊名を与えられた。ここには具体的に隊名が記されている。この中に、振武七十一、振武七十二、振武七十三隊がある。が、振武七十一飛行隊はない。
「陸軍沖縄特別攻撃隊出撃戦死者名簿」で確認をする。振武七十二は、五月二十七日、万世から九機出撃している。振武隊七十三は、四月六日万世から、十二機が出撃している。

(三)
 全貌はよく分からない。が、平壌から松本へ爆装改修に行った機があったことは確かである。その総数は分からない。が、複数は行っていることは間違いない。それが振武隊として編成されて万世から出撃していった。ここに松本で爆装改修した機があったと推測できる。

 代沢国民学校の疎開学童加藤景さんは、浅間温泉では湯本屋にいた。
 その彼は、特攻隊員に色紙を書いてもらった。それを家に送った。その手紙には

 習字は振武隊の人が湯本へとまった時かいていただいたものです。家へはってください。

とあった。平壌からきた隊員だった。すでに振武隊に加わることが内定していたのかもしれぬ。とすると振武七十二か三だ、この隊員はあらかた亡くなっている。



rail777 at 18:30│Comments(0)││学術&芸術 | 都市文化

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