2022年03月02日
下北沢Ｘ物語（4437）―玉電と三軒茶屋と芸術文化村―
（一）荏原二万里、足かけ１８年間荏原地域に埋もれた文化を発掘してきた。ひたすら自力で走り、歩いてきた。今回、現地調査をしてみての結果を報告した。「平福百穂画伯の画塾『白田舎』跡に行きましたよ。なるほどなと思いました。街道から一歩入ったところにそこはありました。通り沿いは家並みがありました。けれどもその裏手に入ると別世界ですね、そこは畑とか雑木林だったのです。敷地が千坪もあったのですね、場所は北のり面の緩斜面です。坂は底の方の烏山川まで下っていきます。だから景色が俯瞰できるのですね。文学者は風景には敏感ではないと思いますが画家はこだわるのだと思いました。画伯は、『ここはいい』と思って『世田谷村三宿三百九十一番地』に画塾を建てようと思ったと思うのです……」私は夢中になって秋田県の人に話をしていた。
三宿に平福百穂画伯が画塾を構えていたことを知った。その場所が分からなかった。調べていくと秋田県角館市に平福記念美術館があることが分かった。旧居がわかるのではないかと。電話をするとすぐに分かった。
文化人の旧居を捜し当てるのは容易ではない。探す場合は年譜から入っていく。大概は居住場所が書いてある。ところがこれが旧番地で書いてある。難問だ、古い地図で確かめられはする。旧番地と新番地は対照はできる。が、前者の区域は広い、居住場所をピンポイントで探し当てるのは困難である。例えば三好達治だ、「世田谷区代田一ノ三一三岩沢方」、これが容易に分からなかった。半年経ってようやっと分かった。
「はす向かいの河野さんのお婆さんが覚えておられて、『三好達治さんところはそこですよ』と」
これを聞いてきたのはやはり地元の人だ。旧居探しは過去を覚えている人を探し出すことが一番だと知った。
ところが平福百穂画伯旧居『世田谷村三宿三百九十一番地』は、現在のどこか美術館の館長さんの小松さんが即座に教えてくださった。
（二）
画塾跡は、大山街道、国道２４６号から北に折れた道の少し入ったところにあった。目についたのは学校だ。画塾の様子を描いた記録がある。「門生松本幾世白田舎回想（「回想平福百穂先生」至芸出版社 昭和５６年６月）ではこう始まる。
渋谷駅から出ていた玉川電車に乗り換えて。 三宿で降り、電車通りから右手に曲がり、少し歩きますと、小学校がありました。
学校は現在の三宿小学校である。創立は古い、明治４１年４月だ、少し坂を下った左手にもも学校がある、世田谷学園中高等学校だ。こちらの創立はもっと古い、「1592年（文禄元年） 江戸神田台に曹洞宗吉祥寺の学寮として創始」とある、当地に移ってきたのは大正２年である。
画塾の回りには古くからの学校がある。広い運動場や木々の緑がある。環境として申し分なかったのではないかと思われる。文章は続く。
（小学校） その正面に向き合って白田舎の白木の門が立っていました。門をくぐりを入ると右側見事な孟宗の竹藪で建仁寺垣で通路を仕切ってありました。 門からまっすぐ玄関へ導く石敷道には、西側にちまき笹の幾群かを群生させ、萩や歯朶、糸すすきなど植え込んでありました。
玄関の左手には古木の梅のもとに、珍しい石で囲まれた車井戸があり、その辺には寒竹の幾株か目立ちました。そのころ白田舎には、種類豊富に竹が植えられていました。塾は先生の画室とは中庭をへだてて廊下続きの逆コの字型に建っていました。中庭には山鳩や鶉など、先生の画材でおなじみの禽舎があり、花が咲き、実を結ぶ芭蕉があったりしました。
塾の建物は東西に長く、南側と北側はいっぱいのガラス窓でしたから、明るい広間でした。 ガラス窓の下は板敷きで、中央が畳敷きになっていて、熟生は板敷に画板を立てたり、置いたりして描いていました。畳敷きの真中に大きな鉄火鉢が置かれ、夏でも炭火が焚かれていました。日本画ではにかわを多く使用するためですが、この火鉢の周りはいつも賑やかでした。
いわゆる洋画のアトリエは、目にすることがある。が、日本画の画室はあまりよく知らない。しかし、建物の植え込みからして違うのだと思った。前庭には画でよく描かれる植物が植えられていた。禽舎というのもおもしろい、日本画の素材として鳥はよく描かれる。備え付けの設備からして本格的な画塾だったことが分かる。素質ある者を徹底してしごいて一人前にする、そんな思いが滲み出ている。
（三）
先生はとても厳しい人でしたから門下生も多くなかったのです。平福百穂美術館の館長小松さんが言っておられた。「評伝 平福百穂」（加藤昭作 短歌新聞社 ２００２年刊）にはこうあった。
平福の門生教育は、なかなか難しいところがあった。長髪を許さず、寒い冬でも足袋を履いたり、座布団を使うことも駄目、また門生同士の恋愛も言語道断、厳重に禁止していた。（三宿、現在の「百田舎跡」）
画塾跡は、大山街道、国道２４６号から北に折れた道の少し入ったところにあった。目についたのは学校だ。画塾の様子を描いた記録がある。「門生松本幾世白田舎回想（「回想平福百穂先生」至芸出版社 昭和５６年６月）ではこう始まる。
渋谷駅から出ていた玉川電車に乗り換えて。 三宿で降り、電車通りから右手に曲がり、少し歩きますと、小学校がありました。
学校は現在の三宿小学校である。創立は古い、明治４１年４月だ、少し坂を下った左手にもも学校がある、世田谷学園中高等学校だ。こちらの創立はもっと古い、「1592年（文禄元年） 江戸神田台に曹洞宗吉祥寺の学寮として創始」とある、当地に移ってきたのは大正２年である。
画塾の回りには古くからの学校がある。広い運動場や木々の緑がある。環境として申し分なかったのではないかと思われる。文章は続く。
（小学校） その正面に向き合って白田舎の白木の門が立っていました。門をくぐりを入ると右側見事な孟宗の竹藪で建仁寺垣で通路を仕切ってありました。 門からまっすぐ玄関へ導く石敷道には、西側にちまき笹の幾群かを群生させ、萩や歯朶、糸すすきなど植え込んでありました。
玄関の左手には古木の梅のもとに、珍しい石で囲まれた車井戸があり、その辺には寒竹の幾株か目立ちました。そのころ白田舎には、種類豊富に竹が植えられていました。塾は先生の画室とは中庭をへだてて廊下続きの逆コの字型に建っていました。中庭には山鳩や鶉など、先生の画材でおなじみの禽舎があり、花が咲き、実を結ぶ芭蕉があったりしました。
塾の建物は東西に長く、南側と北側はいっぱいのガラス窓でしたから、明るい広間でした。 ガラス窓の下は板敷きで、中央が畳敷きになっていて、熟生は板敷に画板を立てたり、置いたりして描いていました。畳敷きの真中に大きな鉄火鉢が置かれ、夏でも炭火が焚かれていました。日本画ではにかわを多く使用するためですが、この火鉢の周りはいつも賑やかでした。
いわゆる洋画のアトリエは、目にすることがある。が、日本画の画室はあまりよく知らない。しかし、建物の植え込みからして違うのだと思った。前庭には画でよく描かれる植物が植えられていた。禽舎というのもおもしろい、日本画の素材として鳥はよく描かれる。備え付けの設備からして本格的な画塾だったことが分かる。素質ある者を徹底してしごいて一人前にする、そんな思いが滲み出ている。
（三）
先生はとても厳しい人でしたから門下生も多くなかったのです。平福百穂美術館の館長小松さんが言っておられた。「評伝 平福百穂」（加藤昭作 短歌新聞社 ２００２年刊）にはこうあった。
平福の門生教育は、なかなか難しいところがあった。長髪を許さず、寒い冬でも足袋を履いたり、座布団を使うことも駄目、また門生同士の恋愛も言語道断、厳重に禁止していた。（三宿、現在の「百田舎跡」）
