2022年03月21日
下北沢Ｘ物語（4450）―駒沢林愛作旧邸とダイダラボッチ ２―
（一）ダイダラボッチとは何か？我が日本においてこれを学術分野でまともに取り上げたものは少ない。邪険に扱われていると言ってよい。昨年こんなことがあった。世田谷代田駅前広場にダイダラボッチの足形が完成した。マスコミにも連絡した。在京二紙から反応があった。一社は区に資料を取りにきた、もう一社東京新聞からは女性記者が取材に来た。広場を背景にして写真まで撮った。ところが記事には載らなかった。編集権は新聞社にある。事情があるのだろう。「こういう事情で載りませんでした」、マスコミ人士の最低限の礼儀だ。が、その後何の音沙汰もない。失礼極まりない。こういう事情の背景にはダイダラボッチなるものの市民権が得られていないということがある。「ああ、妖怪の一種ね」ぐらいの教養しか日本にはない。試みに東京都の図書横断検索で調べてみた。世田谷区立図書館、大田区立図書館が蔵書している「巨人伝説読本：代田のダイダラボッチ」が光っていた。手前味噌ではあるが妖怪類の中では孤軍奮闘していた。
大正年間においてダイダラボッチブームが起こった。近代化との連関からである。明治維新以来、諸方面において開発が進行した。都市に隣接した武蔵野も開発の触手が伸びてきて地勢が破壊されるようになった。畑が転じて宅地になる。そういうときに農夫は境目の物語を語る。「ここはダイダラボッチ」だったと。
ダイダラボッチの火付け役となったのは「武蔵野会」の論考である。昭和二年発行の柳田国雄の『ダイダラ坊の足跡』では、「あの頃、発行せられた武蔵野会の雑誌には、さらにこの隣村の駒沢村の中に二つのダイダラ坊の足跡があることが書いてあった」とある。それが「駒沢遠足」（鈴木堅次郎 大正八年七月）「武蔵野の巨人民潭」（谷川磐雄 大正八年十二月）である。柳田国雄はこれを読んで強く刺激された。それで荏原ダイダラボッチ巡礼を思い立って実施した。
いわゆる「ダイダラボッチ論」では、正統的でまっとうな論考だ、ダイダラボッチ現象の深奥に日本人の深い歴史が潜んでいる。そういう見方でこれを書いている。
（二）
武蔵野会の「駒沢遠足」がダイダラボッチへの道を開いたとも言える。
大正八年六月一日に遠足会のメンバーは渋谷に集まった。
「渋谷に集まったということは玉電ですかね」
われらの町歩きのときに参加者の別宮通孝さんがいう。
「それはないでしょう、電車に乗るなんてもったいない」
武蔵野好きの人は歩いてはならぬ。大正八年だとなんでも残っていたろう。辻には道祖神や道標、いま残っていたとしてもあらぬ方向を向いている、が、当時はちゃんと方向を示していた。古道もそのままである。上ったり下りたり、坂の途中には縄文土器のかけらがいたるところに落ちていた。
雑木林の中を行く道も気持ちいい。
「おいおい左側の穴ぼこはなんだい？」
「あれこそが有名なダイダクボですよ」
「なに、あのダイダラボッチの？」
「そうそうそれ！」
一行は老若男女五十余名、道々あちらを指さし、こちらを指さして歩いていった。
まさに武蔵野が広がっていた。武蔵野会の遠足は素晴らしいものだった。
参加者各自は、どうやら自分が持っているお宝を持参したようだ。
●「駒澤林邸持寄会出品目録」によると例えば、石斧、石槍断片、土器、石鏃二十種など同好の士が持ち寄ったものを展示したようだ。こういうものがふんだんに手に入っていたようである。参加者考古学に多くが興味を持っていた。
（三）
ダイダラボッチは一体何なのか、しかし柳田国男がこれに深い興味を持ったことは日本人の始原に関わるヒントをもっていたからだと思われる。この話ははるか太古にまでさかのぼる話だ。ジャンルとしては考古学になるものではないか。
昨日、長く世田谷の遺跡発掘に長く携わっていた人と話をした。佐藤史人さんである。
「だいたい世田谷の古墳は関東ローム層、多くは降灰の影響を受けています。だから土質は酸性だからたいがい骨は溶けてしまうんですよ」
「縄文時代の古墳からはよく割石が出てくるんです。この片方はどこにあるか、かたっぱしから相方になる石を探しだしてきて合わせるのですが一つとして合うものはない、ということは割ったものを他からもってきたということですね」
彼の話を聞いていて考古学というのは理系なのだと思った。文献はないから残っている現物を徹底的に分析する。必要になってくるのが算数だ。
「ダイダラボッチ」には証拠がない。計測のしようがない。伝承分析はかなり主観的になる。ダイダラボッチは太古の何かを言い表す大事なものだが証明のしようがない。それで荒唐無稽な話として片付けられる。学問領域として成り立ちにくい。それでマスコミなども腰を引くということはあるのかもしれない。
（呑川駒沢支流のそばの公園、河津桜のところで記念写真を撮る）
武蔵野会の「駒沢遠足」がダイダラボッチへの道を開いたとも言える。
大正八年六月一日に遠足会のメンバーは渋谷に集まった。
「渋谷に集まったということは玉電ですかね」
われらの町歩きのときに参加者の別宮通孝さんがいう。
「それはないでしょう、電車に乗るなんてもったいない」
武蔵野好きの人は歩いてはならぬ。大正八年だとなんでも残っていたろう。辻には道祖神や道標、いま残っていたとしてもあらぬ方向を向いている、が、当時はちゃんと方向を示していた。古道もそのままである。上ったり下りたり、坂の途中には縄文土器のかけらがいたるところに落ちていた。
雑木林の中を行く道も気持ちいい。
「おいおい左側の穴ぼこはなんだい？」
「あれこそが有名なダイダクボですよ」
「なに、あのダイダラボッチの？」
「そうそうそれ！」
一行は老若男女五十余名、道々あちらを指さし、こちらを指さして歩いていった。
まさに武蔵野が広がっていた。武蔵野会の遠足は素晴らしいものだった。
参加者各自は、どうやら自分が持っているお宝を持参したようだ。
●「駒澤林邸持寄会出品目録」によると例えば、石斧、石槍断片、土器、石鏃二十種など同好の士が持ち寄ったものを展示したようだ。こういうものがふんだんに手に入っていたようである。参加者考古学に多くが興味を持っていた。
（三）
ダイダラボッチは一体何なのか、しかし柳田国男がこれに深い興味を持ったことは日本人の始原に関わるヒントをもっていたからだと思われる。この話ははるか太古にまでさかのぼる話だ。ジャンルとしては考古学になるものではないか。
昨日、長く世田谷の遺跡発掘に長く携わっていた人と話をした。佐藤史人さんである。
「だいたい世田谷の古墳は関東ローム層、多くは降灰の影響を受けています。だから土質は酸性だからたいがい骨は溶けてしまうんですよ」
「縄文時代の古墳からはよく割石が出てくるんです。この片方はどこにあるか、かたっぱしから相方になる石を探しだしてきて合わせるのですが一つとして合うものはない、ということは割ったものを他からもってきたということですね」
彼の話を聞いていて考古学というのは理系なのだと思った。文献はないから残っている現物を徹底的に分析する。必要になってくるのが算数だ。
「ダイダラボッチ」には証拠がない。計測のしようがない。伝承分析はかなり主観的になる。ダイダラボッチは太古の何かを言い表す大事なものだが証明のしようがない。それで荒唐無稽な話として片付けられる。学問領域として成り立ちにくい。それでマスコミなども腰を引くということはあるのかもしれない。
（呑川駒沢支流のそばの公園、河津桜のところで記念写真を撮る）
