2022年03月30日
下北沢Ｘ物語（4456）―三軒茶屋の歴史文化と戦災 ―
（一）三軒茶屋の歴史文化を探るという場合、手応えの感度が鈍い。一つは歴史の浅さである、三軒茶屋という地名として正式に認められたのは昭和7年(1932)、世田谷区成立時である。もう一つは戦災である。海野十三の『一坪館』の記述だ、「三軒茶屋は、大きな建物のならんだにぎやかな町だったが、それも焼けてしまって、ぺちゃんこの灰の原っぱになった」と、戦災で一切合切が焼き払われた。生活の断続性が断ち切られてしまった。我らは文化人の旧居を掘り出しているが、ほとんど当時の面影は残っていない。焼け出されて人々は他所へ移っていった。時間が継続することで文化は残る。が、三軒茶屋一帯はあらかた焼き払われた。痕跡がなくなると人の記憶も消え去ってしまう。
三軒茶屋の歴史文化を探る過程で画塾「白田舎」の存在を知った。大正八年九月に三宿に開かれた。平福百穂画伯によってである。玉川電気鉄道三宿電停のすぐ近くだ。
鉄道が武蔵野に敷設されたことは大きい。世田谷に芸術文化が花開いたのはこの影響だ。
大正八年に開塾の白田舎は玉川電気鉄道の開通に負うところが大きい。昭和2年に小田急開通と同時に世田谷代田に帝国音楽学校ができた。前者には画家が、後者には音楽家が付近に住まうようになる。
画家の平福百穂は、『寒竹』という歌集がある。この中に三宿の画塾を詠んだ「白田舎即吟」五首がある。
畑中にこの家つくり竹うえてことし六とせの春たちにけり
画塾を開いて六年が経過した。大正十五年である。大山街道裏手の畑に画塾を建てた。瞬く間に六年が経ってしまった。
（二）
平福百穂は歌人としても著名だった。伊藤左千夫と親しかった。アララギ派の歌人としても活動し、斎藤茂吉とも深い交流があった。
いつしかに街とはなりぬ畑中のこの舎の向こうも見えましに
「白田舎」は、烏山川右岸の丘上に建った。もとは大根畑だった。下には太子堂や三宿の町が広がっている。ここに大きな変化があった。大正十二年の関東大震災である。この影響を受けて烏山川沿岸には家々がびっしりと建った。震災から逃れてきた人々がここに住んだ。それでいつの間にか沿岸の田圃には家が建ったことよと。
ここに日本画家を育てる「白田舎」が建ったことは大きい。「帝国新書画名鑑」（昭和14年）、「三軒茶屋文士町文化地図」内に住んでいた画家をピックアップしよう。
文展審査員格
世田谷区太子堂町三三九 矢澤弦月 五四 廣業 山水
文展五回入選
世田谷区太子堂一一四 立石春美 三二 深水 美人
世田谷区三宿町 九一 一心塾内 舟山三朗 三一 百穂 風景
文展四回入選
世田谷区三軒茶屋一九二 吉田白流 四一 百穂 風景
世田谷区太子堂町四〇 岩淵芳華 三九 蓬春 人物
文展三回入選
世田谷区三宿三一 松浦満 三二 花鳥
文展二回入選
世田谷区三宿町 白田舎 寺澤大潤 五五 百穂 風景
文展一回入選
世田谷区三宿町三九一 柳生鹽億 三八 一畝 人物・花鳥
世田谷区太子堂一六二 竹谷雪嶺 四四 多門 山水
世田谷区太子堂一五七 大関萬江 三七 龍岬 風景
世田谷区三宿町 白田舎 宮崎神橋 四二 百穂 凡
世田谷区太子堂四四八 岡田真一 三八 玉堂 花鳥 山水
世田谷区三宿町二三八 公文芦淵 六五 土佐 歴人
矢沢弦月は重鎮である、白田舎のすぐ近くに住んでいた。世田谷区内で亡くなったとある。ここの住まいは戦災に遭ったところだ、終焉の場所はどこか分からない。
「三軒茶屋文士町」は日本画家が多く住んでいた。一つの理由は「白田舎」があったからだ。「白田舎」を住まいとしている者もいるが、画塾近辺に住んでいる者もいた。芸術家村ができたのは平福百穂画伯に負うところが大きい。
（三）
「三軒茶屋文士町」には多くの日本画家がいた。ここでは三軒茶屋、太子堂、三宿と限定しているが、この近隣には多くの描き手がいた。しかし、一帯は戦災に遭った。居宅の多くは焼けてしまった。三軒茶屋文士町の知られざる逸話である。
（写真は太子堂二丁目の路地）
平福百穂は歌人としても著名だった。伊藤左千夫と親しかった。アララギ派の歌人としても活動し、斎藤茂吉とも深い交流があった。
いつしかに街とはなりぬ畑中のこの舎の向こうも見えましに
「白田舎」は、烏山川右岸の丘上に建った。もとは大根畑だった。下には太子堂や三宿の町が広がっている。ここに大きな変化があった。大正十二年の関東大震災である。この影響を受けて烏山川沿岸には家々がびっしりと建った。震災から逃れてきた人々がここに住んだ。それでいつの間にか沿岸の田圃には家が建ったことよと。
ここに日本画家を育てる「白田舎」が建ったことは大きい。「帝国新書画名鑑」（昭和14年）、「三軒茶屋文士町文化地図」内に住んでいた画家をピックアップしよう。
文展審査員格
世田谷区太子堂町三三九 矢澤弦月 五四 廣業 山水
文展五回入選
世田谷区太子堂一一四 立石春美 三二 深水 美人
世田谷区三宿町 九一 一心塾内 舟山三朗 三一 百穂 風景
文展四回入選
世田谷区三軒茶屋一九二 吉田白流 四一 百穂 風景
世田谷区太子堂町四〇 岩淵芳華 三九 蓬春 人物
文展三回入選
世田谷区三宿三一 松浦満 三二 花鳥
文展二回入選
世田谷区三宿町 白田舎 寺澤大潤 五五 百穂 風景
文展一回入選
世田谷区三宿町三九一 柳生鹽億 三八 一畝 人物・花鳥
世田谷区太子堂一六二 竹谷雪嶺 四四 多門 山水
世田谷区太子堂一五七 大関萬江 三七 龍岬 風景
世田谷区三宿町 白田舎 宮崎神橋 四二 百穂 凡
世田谷区太子堂四四八 岡田真一 三八 玉堂 花鳥 山水
世田谷区三宿町二三八 公文芦淵 六五 土佐 歴人
矢沢弦月は重鎮である、白田舎のすぐ近くに住んでいた。世田谷区内で亡くなったとある。ここの住まいは戦災に遭ったところだ、終焉の場所はどこか分からない。
「三軒茶屋文士町」は日本画家が多く住んでいた。一つの理由は「白田舎」があったからだ。「白田舎」を住まいとしている者もいるが、画塾近辺に住んでいる者もいた。芸術家村ができたのは平福百穂画伯に負うところが大きい。
（三）
「三軒茶屋文士町」には多くの日本画家がいた。ここでは三軒茶屋、太子堂、三宿と限定しているが、この近隣には多くの描き手がいた。しかし、一帯は戦災に遭った。居宅の多くは焼けてしまった。三軒茶屋文士町の知られざる逸話である。
（写真は太子堂二丁目の路地）
