2022年09月03日
下北沢Ｘ物語(4540）―特攻隊民謡を記録する―
（一）特別攻撃隊は各地から出撃した。が、出撃準備をするために滞在を余儀なくされる。そんな中で民間人と接触する機会があった。壮行会も行われた、多くはプライベートなものである。隊員たちは別れるに当たってお礼を述べた、それを即興で歌って披露した。土地のことを歌い、そして人々への感謝の念も述べた。特攻隊民謡である、しかし彼等は死出の旅にでてゆく、特攻隊民謡は各地で密かに歌われたが残らなかった。浅間温泉の一旅館、富貴之湯でもこれが歌われた。当座限りのものでる、なのにこれを一人の疎開学童女児が覚えていて、今日に伝わった。類例のない歌である。
その特攻隊の名は、と号第三十一飛行隊（武揚隊）である。浅間温泉へはと号第三十二飛行隊（武剋隊）もきている、この二隊は他の二隊、扶揺隊、蒼龍隊とともに満州第二航空軍で発足している。満州新京発足のこの特攻四隊は大本営直属の特攻隊である。それゆえにプライドが高かった。扶揺隊隊歌も作られている。武揚隊隊歌も創られていた。
1945年３月末日、武揚隊は約４０日間を過ごした富貴之湯に別れを告げた、この大広間で壮行会が行われた。富貴之湯は女子の学寮である、他の６館にも分宿していたが、男女ともに富貴之湯の大広間に集まってきた。当館は浅間で一二を争う大旅館であった。
「壮行会が行われたときに『武揚隊隊歌』が歌われたように思うのですが、『命を賭けて契りたる我ら十五の血の朋ぞ』という歌はうたいませんでしたか？」
秋元さんに聞いたが、覚えていないという。
（二）
「世界平和がきましたならば、愛し懐かし日の本へ、帰りゃまっさき浅間を目がけ、富貴之湯へ」
これがお終いの三番である。一番、二番と歌ってそしてここにきた。皆昂揚して歌っただろうと思う。
彼等は富貴之湯にいる女子学童を思慕していた。二番には、「かわいいみなさんの人形乗せてわたしゃいきます〇〇へ」と歌っている。〇〇はぼかしだ、沖縄が名として入るが機密事項である。それでこう歌った。
この歌は秋元佳子さんが覚えていてこれが偶然拾われて記録された。特攻隊が本音を歌ったものとして知られてほしいと思った。しかし、これが浸透していくことはなかった。
故松林宗恵監督から邪宗門でよく話を伺った。「連合艦隊」を撮られた監督だ。
「大坂の試写会に行ったときに、特攻兵が突っ込むときに『お母さんと言わせていますが、天皇陛下万歳ではないですか』と言われたことがあった」
国民の特攻兵観というのがある、お国に尽くした兵隊である。特攻隊員は私情は持っていない。可愛い女の子に慕情を覚えたなんていう話は好まれないようだ。
国に殉じた若者は立派に逝ったという固定観念が植え付けられている。
特攻隊員も普通の人間だ、女を恋し、母を慕うものだ。が、英霊はそんなことはしない。
（三）
「浅間温泉にはたごまった網の目が毛玉のようにあるのですよ。その一本一本をときほぐしていくと思いがけない事実がわかるのです」
私は疎開学童と何人も出会って、一本一本それをほぐして行って一つの事実を掴み取った。
「戦争末期、驚くほどの特攻機が陸軍松本飛行場に来ていたことを知ったのですよ。ところがその疎開学童も９０歳近くになってきましたから、もう話は聞き取れなくなっているのです。秋元さんは８８歳で元気です、貴重な話が聞けてよかったですね」
三時間かかっての聞き取りは終わった。
（写真は、寺尾紗穂さんと秋元さん、今年１月に撮ったもの）
「世界平和がきましたならば、愛し懐かし日の本へ、帰りゃまっさき浅間を目がけ、富貴之湯へ」
これがお終いの三番である。一番、二番と歌ってそしてここにきた。皆昂揚して歌っただろうと思う。
彼等は富貴之湯にいる女子学童を思慕していた。二番には、「かわいいみなさんの人形乗せてわたしゃいきます〇〇へ」と歌っている。〇〇はぼかしだ、沖縄が名として入るが機密事項である。それでこう歌った。
この歌は秋元佳子さんが覚えていてこれが偶然拾われて記録された。特攻隊が本音を歌ったものとして知られてほしいと思った。しかし、これが浸透していくことはなかった。
故松林宗恵監督から邪宗門でよく話を伺った。「連合艦隊」を撮られた監督だ。
「大坂の試写会に行ったときに、特攻兵が突っ込むときに『お母さんと言わせていますが、天皇陛下万歳ではないですか』と言われたことがあった」
国民の特攻兵観というのがある、お国に尽くした兵隊である。特攻隊員は私情は持っていない。可愛い女の子に慕情を覚えたなんていう話は好まれないようだ。
国に殉じた若者は立派に逝ったという固定観念が植え付けられている。
特攻隊員も普通の人間だ、女を恋し、母を慕うものだ。が、英霊はそんなことはしない。
（三）
「浅間温泉にはたごまった網の目が毛玉のようにあるのですよ。その一本一本をときほぐしていくと思いがけない事実がわかるのです」
私は疎開学童と何人も出会って、一本一本それをほぐして行って一つの事実を掴み取った。
「戦争末期、驚くほどの特攻機が陸軍松本飛行場に来ていたことを知ったのですよ。ところがその疎開学童も９０歳近くになってきましたから、もう話は聞き取れなくなっているのです。秋元さんは８８歳で元気です、貴重な話が聞けてよかったですね」
三時間かかっての聞き取りは終わった。
（写真は、寺尾紗穂さんと秋元さん、今年１月に撮ったもの）
