2022年09月05日
下北沢Ｘ物語(4541）―国鉄詩集を求めて東奔西走―
（一）鉄道は詩の宝庫であった、が、現今鉄道は詩情を喪失している。／鉄道詩と聞くと心ときめく、この括りは自分が広めたものだ。（「日本鉄道詩紀行」集英社）、ただ鉄道という言葉は即物的だ、語に詩情は感じられない。むしろ汽車の方に情趣を感じる。それで「汽車詩」と言うようにしている。詩と鉄道ということで言えば「国鉄詩集」がある。が、この国鉄はJRになった。言葉の連想で「JR詩集」が浮かぶ。これには全く魅力を感じない。国鉄全盛時代、鉄道は、「一大芸術だ」と豪語していた、鉄道黄金時代だ、その時は鉄道に詩情があった。汽車、停車場、機関車などすべてが詩になった、かつて線路脇を通ると「ヤットン、コラセー、トコショット……」という線路突き固め音頭、詩が聞こえてきた。国鉄時代である。往時、国鉄詩人連盟があって「国鉄詩集」は毎年出されていた、この詩集には現場労働者の苦難が歌われている、今、老いてきて物欲は減じているが、これは欲しい。折良く、ネットオークションに詩集が出ていた。即刻入札したのであったが……
オークションに出ていたのは、つぎである。
＜鉄路のうたごえ（国鉄詩集）＞ 国鉄労働組合文教部 田畑弘 三一書房
これは落札した。１２００円だった。どんな汽車詩が載っているのか楽しみだった。ところが出品者から連絡があった。在庫があると思って出品したが、それは無かった、「当方の完全な手落ちです」という連絡が入った。怒り心頭……
見たいと思ったものが見られない、そうするとよけいに見たいと思う。思いついたのは図書館検索である。これは今は全国検索ができる。東京都にはない、それで順次近県検索を試みる。するとなんと幸運なことに神奈川県にあった。しかも川崎である。ここも数館ある。引っ掛かったのは「中原図書館」である。これも幸運だ、武蔵小杉駅にあるという。自宅からは東急線一本で行ける。しかし、これは近すぎる。
どうしたかと言うと多摩川駅まで行って、ここからは歩いた。散歩と図書館訪問、一挙両得とはこのことだ。中原街道の多摩川大橋を渡っていく、気持ちよい川風に吹かれて県境を越えたことだ。
（二）
書籍調査で必須なのは「奥付」だ。
タイトル「鉄路のうたごえ」 発行年月日 一九五四年七月三十一日
編者代表 国鉄労働組合文教部 発行所 三一書房
国鉄労働組合傘下に、「国鉄詩人連盟」があった、労働運動の一環だ。
「鉄路のうたごえ」のあとがきを詩人の伊藤信吉が書いている。その一節である。
国鉄の詩の運動はずっと昔から続いていて、そこに一種の伝統のようなものができている。 詩を作る人の数も随分多いし、作品の質も一般に高い。 私は外国の交通運輸労働者の文学がどんな状態にあり、詩の面でどのような成果を収めているかを知らないけれども、おそらくここに集まった国鉄の詩は、鉄道労働者の文学として高い国際的水準を示すものではないだろうか。国内的に言っても、もっとも優れた労働詩集ということができる。 この詩集におさめた一五六篇の作品は、国鉄の詩運動の成果の一端に過ぎない。ぜんたいの量と質はこれよりも上にあるといってよい。 もしも私のこの言い方を言い過ぎと思う人はこれからも次々に現れる作品を注意して見るがよい。
国鉄詩人連盟は一九四八年、昭和二十三年に発足している。戦後間もなくのことである。全体主義に押さえつけられていた人々が敗戦を迎え、そして得たのは自由である。思いの丈を詩にぶつけた。
国鉄という場は詩に満ちていた。というよりも鉄道が詩情に満ちていた。鉄道員のみならず一般の人々が鉄道を素材とした短歌、俳句、詩を多く創っている、その数は膨大なものに上る。
一頃、「昭和万葉集」が話題になった。言えばジャンル発掘である。我々は認知はしていないが「昭和鉄道詩」、「昭和汽車詩」というものの存在を感じる。その作品数から言っても十分に成り立つものである。
（三）
「羈旅歌」というものがある、万葉集の部立てに使われる語である。いわゆる旅の歌である。この羈旅歌は詩歌世界では伝統的なジャンルとしてずっと詠まれてきた。詩歌全般に及ぶものだ、短歌に、俳句に、詩に詠まれている。
この羈旅歌の伝統は、どうやら近代の鉄道にも受け継がれていた、国鉄詩集はその典型である。「鉄路のうたごえ」を見ると現業職員が多く詠んでいる。機関士、駅員、操作場職員、踏切番、線路工夫など種々雑多だ。日本古来の詩歌伝統が鉄路世界に踏襲されていると言ってよい。
書籍調査で必須なのは「奥付」だ。
タイトル「鉄路のうたごえ」 発行年月日 一九五四年七月三十一日
編者代表 国鉄労働組合文教部 発行所 三一書房
国鉄労働組合傘下に、「国鉄詩人連盟」があった、労働運動の一環だ。
「鉄路のうたごえ」のあとがきを詩人の伊藤信吉が書いている。その一節である。
国鉄の詩の運動はずっと昔から続いていて、そこに一種の伝統のようなものができている。 詩を作る人の数も随分多いし、作品の質も一般に高い。 私は外国の交通運輸労働者の文学がどんな状態にあり、詩の面でどのような成果を収めているかを知らないけれども、おそらくここに集まった国鉄の詩は、鉄道労働者の文学として高い国際的水準を示すものではないだろうか。国内的に言っても、もっとも優れた労働詩集ということができる。 この詩集におさめた一五六篇の作品は、国鉄の詩運動の成果の一端に過ぎない。ぜんたいの量と質はこれよりも上にあるといってよい。 もしも私のこの言い方を言い過ぎと思う人はこれからも次々に現れる作品を注意して見るがよい。
国鉄詩人連盟は一九四八年、昭和二十三年に発足している。戦後間もなくのことである。全体主義に押さえつけられていた人々が敗戦を迎え、そして得たのは自由である。思いの丈を詩にぶつけた。
国鉄という場は詩に満ちていた。というよりも鉄道が詩情に満ちていた。鉄道員のみならず一般の人々が鉄道を素材とした短歌、俳句、詩を多く創っている、その数は膨大なものに上る。
一頃、「昭和万葉集」が話題になった。言えばジャンル発掘である。我々は認知はしていないが「昭和鉄道詩」、「昭和汽車詩」というものの存在を感じる。その作品数から言っても十分に成り立つものである。
（三）
「羈旅歌」というものがある、万葉集の部立てに使われる語である。いわゆる旅の歌である。この羈旅歌は詩歌世界では伝統的なジャンルとしてずっと詠まれてきた。詩歌全般に及ぶものだ、短歌に、俳句に、詩に詠まれている。
この羈旅歌の伝統は、どうやら近代の鉄道にも受け継がれていた、国鉄詩集はその典型である。「鉄路のうたごえ」を見ると現業職員が多く詠んでいる。機関士、駅員、操作場職員、踏切番、線路工夫など種々雑多だ。日本古来の詩歌伝統が鉄路世界に踏襲されていると言ってよい。
