2022年09月06日
下北沢Ｘ物語(4542）―国鉄詩集を求めて東奔西走 ２―
（一）小野十三郎の詩集に『蒸気機関車』がある、「吹田操車場」を描いた詩では機関車の溜まりを訪ねる場面がある「なんと、いる。いる。／いたるところもう／俺のあこがれでいっぱいだ。」と描く、川崎市中原図書館で『鉄路のうたごえ』を閲覧する、心がはやる、ページをめくっていく「なんと、いる、いる／いたるところもう／俺の憧れの汽車詩集でいっぱいだ」。「貨車押」、「踏切にて」、「濃霧運転」、「発車」、「出札窓」、「峡を下る」、「吹雪の夜」など目白押しだ。やっと出会えた汽車詩たちに小躍りした。
オークションでは『鉄路のうたごえ』は落札できなかった。ところが「メルカリ」で検索したところ国鉄詩人連盟に所属する国鉄詩人詩集が五冊出品されていた。これは問題なく落札できた。（うち二冊が写真）
当方は、汽車詩を手に入れたいということで落札した。が、期待はしなかった。国鉄詩人連盟に所属する詩人が個別に詩を出す。詩は日々の感懐を表すものだ、汽車詩オンパレードではないだろう。そういう予測はあった。
荷物が届いた、期待して見ていく、が、予想通りだった。汽車詩はなかった。ただ一冊だけ、ローカル線の駅風情を詠んでいる詩があった。その内の一つ「車内」と題された詩は、
誰が落としていったのか
駅前の雪の上に転がっていた塩鯖の頭
島田紫郎詩集 午後 国鉄詩人連盟発行 １９７２年刊
詩としては面白い惹きつけである。略歴に当人の勤務先が書いてある。美濃白鳥自動車営業所だ、国鉄バスの運転手だろう、ローカル線で職場に通っていたようだ。越美南線であることが想像できた。
国鉄詩人連盟が発行する「既刊詩集」は五十冊もあった。国鉄詩人連盟に所属する詩人のなんと多いことだ。
（二）
鉄道になぜ人は詩情を持つのか？日本の風土や地形が関係するように思う。まず地形である。東西南北に長い弓なりの国土である。ここに鉄道路線が敷設されている。その列島を上り下りの列車が走っていく。上り下りの終着は東京である。
人々はこの弓なり列島を旅した、今は夜行列車は少ない、が、かつてはふんだんにあった。一昼夜かけて走った。
鉄道が好きな文学者は多い。大概が地方出身者である。午後になって東京行きの汽車が通るところは、汽車好きを産み出す温床である。ときめくのは夜汽車である。詩情を感じるのは上りである。東京行きの列車が汽笛を鳴らし走っていく、
夕方や夜に、東京行きの汽車が駆け抜けていく地帯は危ない。汽車詩の達人は「こんなやみよののはらのなかをゆくときは／客車のまどはみんな水族館の窓になる」（宮沢賢治『青森挽歌』）と夜汽車を比喩する。客車が蜜柑色の灯りを点して走っていく、これが遠汽笛を鳴らして駆けてゆき、しまいには赤い尾灯がすっと消える。ここがまさに詩である。せつないおもいや悲しい思いが湧いてくる。
鉄道詩の中で夜行列車は最高の味わいだ、私は汽車詩の最高傑作は萩原朔太郎の『夜汽車』であると思う。弓なり列島をロングディスタンスを走る夜汽車が走っていた。これが汽車詩人を醸成する土壌を創った。
つぎは、日本人の抒情性である。夜汽車が闇にすっと消えていくところは日本人は弱い。恋しい人が行ってしまったと思うともういてもたってもいれれない。
JR詩集が生まれないのは、国鉄を分けて線路を短くしてしまったからだ。今にして思えばいい時代だった、北に南に長距離の寝台列車が走っていた。JR全体が詩的な土壌を壊してしまったと言える。
（三）
画家の平山郁夫は瀬戸内海生口島の出身である、彼の書いたエッセイで読んだ覚えがある。島からは対岸を走る呉線の夜汽車が見えたと、これを聞いただけでもう脳裏に自然と汽車詩が湧いてくる。やっぱりもの思わせるのは上り列車である。
鉄道になぜ人は詩情を持つのか？日本の風土や地形が関係するように思う。まず地形である。東西南北に長い弓なりの国土である。ここに鉄道路線が敷設されている。その列島を上り下りの列車が走っていく。上り下りの終着は東京である。
人々はこの弓なり列島を旅した、今は夜行列車は少ない、が、かつてはふんだんにあった。一昼夜かけて走った。
鉄道が好きな文学者は多い。大概が地方出身者である。午後になって東京行きの汽車が通るところは、汽車好きを産み出す温床である。ときめくのは夜汽車である。詩情を感じるのは上りである。東京行きの列車が汽笛を鳴らし走っていく、
夕方や夜に、東京行きの汽車が駆け抜けていく地帯は危ない。汽車詩の達人は「こんなやみよののはらのなかをゆくときは／客車のまどはみんな水族館の窓になる」（宮沢賢治『青森挽歌』）と夜汽車を比喩する。客車が蜜柑色の灯りを点して走っていく、これが遠汽笛を鳴らして駆けてゆき、しまいには赤い尾灯がすっと消える。ここがまさに詩である。せつないおもいや悲しい思いが湧いてくる。
鉄道詩の中で夜行列車は最高の味わいだ、私は汽車詩の最高傑作は萩原朔太郎の『夜汽車』であると思う。弓なり列島をロングディスタンスを走る夜汽車が走っていた。これが汽車詩人を醸成する土壌を創った。
つぎは、日本人の抒情性である。夜汽車が闇にすっと消えていくところは日本人は弱い。恋しい人が行ってしまったと思うともういてもたってもいれれない。
JR詩集が生まれないのは、国鉄を分けて線路を短くしてしまったからだ。今にして思えばいい時代だった、北に南に長距離の寝台列車が走っていた。JR全体が詩的な土壌を壊してしまったと言える。
（三）
画家の平山郁夫は瀬戸内海生口島の出身である、彼の書いたエッセイで読んだ覚えがある。島からは対岸を走る呉線の夜汽車が見えたと、これを聞いただけでもう脳裏に自然と汽車詩が湧いてくる。やっぱりもの思わせるのは上り列車である。
