2022年09月23日
下北沢Ｘ物語(4553）―野砲兵の軍馬のゆくえ？―
（一）三軒茶屋に残る旧軍の痕跡を巡った。もう十数回、戦跡歩きは行ってきた、が、全く欠落していたことは馬たちの行方だ。下馬に残存する馬魂碑は昭和十四年十二月に建立されている。これには「野砲兵第一連隊留守部隊長」の名が刻まれている。本隊の方はソ連国境満蒙に派兵されていた。最前線は悪路だ、砲兵隊に馬は必須だった。人馬ともに海を渡っている。さらに戦争末期になって戦況が悪化すると満州に派遣されていた部隊が南方戦線へ転進させられていた。野砲兵第一連隊はレイテに送られた、大陸から南方へは海路を行く、輸送船での軍馬の移動は困難で数が制限されていた。それでも馬も渡っている。レイテに何頭送られたか分からない。が、大陸から沖縄に移駐した野砲兵は馬を帯同している。その馬たちの末路は哀れだ、馬は悪路を克服する戦力だったが、食糧が不足する沖縄では馬肉として食われてしまっていた。
戦争の真実はわからないことが多い。我らもフィールドワークを通して多くのことを知った。今になって考えると馬の行方を考える事実を把握していた。以前のブログに記録があった。
駒沢練兵場の東南隅の下馬寄りに、鉄道貨車に馬を乗せる訓練のために、鉄道貨車二両が置かれ、乗せ降ろしの訓練が行われていた。（「しもうま」下馬史跡保存会発行）
これは「石橋楼覚書」にも、「下馬寄りにはどこにも繋がっていない線路とプラットホームがあり、軍馬を積み込むためのデリック（起重機）と貨車が訓練用に設けられていました。」とほぼ同内容のことが記されていた。
練兵場では貨車へ馬を乗せ降ろしの訓練をしていた。そのためのプラットホームがあり、また、家畜車が二両用意されていたという。貨車記号は「ヨ」だったのだろうか。家畜車は車体がすかし張りになっている。かつて、ホームに停まったそれからは牛の目や鼻を見たことがある。
野砲兵各隊に配置されていた馬は、いわば仮寓に置かれたものたちだ、派遣が決まると人馬ともども当地を離れた。最寄り駅は渋谷か恵比寿だ、いずれも貨物線、引き込み線があった。港は様々だ、芝浦、宇品、新潟などがあった。
（二）
大陸へ渡った馬の様子が覗える記事があった。NHKアーカイブ。日中戦争・太平洋戦争従軍の証言 赤池 光夫さん（兵士、男性）の話だ。
大陸の夏は暑く、戦野はとてつもなく広くその果てを知らない。皇軍はこの広大な戦野に敵を求め昼夜を問わず行軍を続ける。軍馬は重機関銃や重い弾薬を背負って兵と行動を共にする。日本の軍馬は暑さに想像以上に弱い。オーラ、オーラ、と優しい言葉をかけながらの進軍、全身汗びっしょりの軍馬の手綱を引っ張ってもお尻を押してやっても動こうとしない。もう動けないのだ。軍馬も暑さに負けたのだ。重い荷物を下ろし、鞍を外し汗を拭ってやる。塩をなめさせる。水を飲ませる。疲れた体で懸命に馬の介抱をする。戦争は「酷」の連続だ。
日中戦争では、「敗戦まで（1937〜45年）には， 計50〜60万頭が動員されたと推定されている」ようだ。
一方、南方戦線に向かった軍馬はどうしたか。やはりレイテへも馬匹は運ばれたようだ。レイテに渡った人の証言がある。途中で船が沈んでしまった。「船が沈没すると兵員は救助できるが、軍馬は船に残さねばならない。その時の馬の鳴き声が今でも残っています」（比島マスバテ島 泉部隊一衛生兵の生還 岐阜県 瀬ノ上尹男）
野砲兵第四十二連隊は、大陸から沖縄への転戦組だ。やはり馬を連れてきていた。
「野砲兵第四十二連隊には大砲を引く七〇〇〜八〇〇�圓發△謐稜呂�り、珍しくて地元の農民がよく見物に来ていた」とのこと。
この馬たちは、「一頭残らず�狒缶猫瓩靴拭廚函△泙紳燭�が兵隊たちや地元の人々に食用にされたとも記録している。
沖縄戦下の軍馬たち 大瀧真俊 名城論叢 第２２巻１号 ２０２１年 参照
（三）
我ら最後は、世田谷平和資料館へ行った。ここで知った事実がある。
と号第三十二飛行隊（武剋隊）の隊員今西修軍曹は、千代の湯に疎開していた立川裕子さんに詩を贈っている。それは満州国皇帝溥儀に戴いた恩賜の煙草を包んだ布きれだ。立川さんはこれを館に寄贈した。
三年ほど前に世田谷の保坂展人区長と当館で対談したことがある。そのときに軍曹遺墨を展示してほしいと頼んだ。今回行くと、解説をつけた展示品となっていた。（了）
（上、世田谷平和資料館前で 中、下馬図書館館長二ノ宮さんと「鉛筆部隊と特攻隊」を愛読されていた持っているのは武剋隊大平軍曹の遺墨。下、世田谷公園）
