2023年01月28日
下北沢Ｘ物語（4638）―朔太郎の影を求めて遊歴１９年 ２―
（一）１９年の長きに亘って詩人の影を追っていたというのは驚きだった。が、この気づきによって自身刺激されもした、そしてまた人の批評「『次元の穴』というのは語りによって現出するように思います」とこの間の町歩きに参加した脇本佑紀君が指摘したことも衝撃であった。彼は教え子であり、フェィスブック友だちである。その哲学的感性は鋭いものがある。彼が言う語りとは私の案内である。萩原朔太郎の影を追って町を歩いた。そのときに地点地点で説明をした。例えば、下北沢旧居の裏手の路地「この道は詩人にとって欠かせないものですね。ここを通ってひっそりと徘徊していたのです」と。そう解説しながら私は「飄々として影のようにゆかれる」というフレーズを思い起こしていた。詩人の行状を述べた三好達治の詩である。そう路地の暗がりは次元の穴であった。が、このことも影を追って散々に歩き回ったから言えることである。
振り返るとひたすらに自転車で走り、そして歩いた。その行動は推理力、想像力を高めることに役だったと思う。人は私の話を聞いて次元の穴なるものの存在を知覚したようである。穴はあるものではなく、語るものというのは形而上的だ、実際に語ったところは多くあった。脇本君の指摘から考えると、次元の穴はもしかしたら伝承されるものかもしれないとも思ったことだ。
『下北沢X惜別物語』は、踏切に執した物語である。一つ一つの踏切を歩き、そのまわりの近隣の人からエピソードを聞き取った。それらをすべて書き記している。とくに大きく取り上げたのは世田谷代田２号踏切である。事故が頻繁に起こって国会でも取り上げられた。いわゆる魔の踏切である。
自分がよく調べたからよく知っている。歌人の斎藤茂吉が根津山に孫を連れていくときも通ったと思われる。散歩で山に行くには都合がいい、古関裕而も通ったはずだ。萩原朔太郎は分からない。しかし、晩年、漫歩を趣味としていた彼もまた通ったのではないか。
（二）
この世田谷代田２号踏切の新たな逸話を聞かされた。今まで聞いたこともない話である。その当人からは新聞資料も戴いている。ところがこれは書いていない。深く興味が湧くが書き記すにはためらわれるものがある。
吉増剛造は「下北沢裂くべし」と激越的な調子で歌った。この踏切に関しては「世田谷代田裂くべし」と言うべきかもしれない。が、だいだという濁りがあるためか、このフレーズは詩にはならない。
小田急線の地下化によって踏切はすべて消えた。これによって踏切にまつわる話もすべて消え去った。
「車は続けて通るでしょう、踏切が開いたのね」
大月菓子店のおばあちゃんが教えてくれた。東北沢４号踏切が開いて、待たされていた車が一気に下北沢一番街になだれこむ。そのことを彼女は言っていたのだ。
彼女の孫が金縛りに遭ったというのは西隣の東北沢５号踏切でのことだ。路地踏切は遮断機もなく危ない、子どもが多く轢かれたという。
「あそこの踏切はおばちゃんの踏切と呼んでいました」
立川家の女中さんが踏切で自殺したことからそう呼んでいたという。立川家に関わる縁者の証言である。この立川家のお嬢さんが立川裕子さんである。
自身、松本特攻に関わる本を何冊も書いた。最近のは暮れに出した、「台湾出撃沖縄特攻-陸軍八塊飛行場をめぐる物語」である、五冊目だ。最初のが「鉛筆部隊と特攻隊」である、ここの中で重要な役割を果たしているのが立川裕子さんである。
鉛筆部隊の田中幸子さん、そして立川裕子さんも亡くなった。この二人と出会わなかったら埋もれた逸話は日の目を見なかった。そう言えば二人とも踏切近くに住んでいた。東北沢４号踏切、５号踏切である。
（三）
みんな踏切逸話に繋がる。踏切は次元の穴だった。
吉増剛造は『猫町界隈』（「地図 不思議な夢の旅 イメージの冒険」 河出書房新社 一九七八年）で下北沢２号踏切脇の「をまもり地蔵」を取り上げている。「不思議な傷口の様な、地底に通ずる目を私は見た」と述べている。「次元の穴」である。
（写真はこの間の町歩き、「代田の丘の６１号鉄塔碑」前で撮ったもの）
この世田谷代田２号踏切の新たな逸話を聞かされた。今まで聞いたこともない話である。その当人からは新聞資料も戴いている。ところがこれは書いていない。深く興味が湧くが書き記すにはためらわれるものがある。
吉増剛造は「下北沢裂くべし」と激越的な調子で歌った。この踏切に関しては「世田谷代田裂くべし」と言うべきかもしれない。が、だいだという濁りがあるためか、このフレーズは詩にはならない。
小田急線の地下化によって踏切はすべて消えた。これによって踏切にまつわる話もすべて消え去った。
「車は続けて通るでしょう、踏切が開いたのね」
大月菓子店のおばあちゃんが教えてくれた。東北沢４号踏切が開いて、待たされていた車が一気に下北沢一番街になだれこむ。そのことを彼女は言っていたのだ。
彼女の孫が金縛りに遭ったというのは西隣の東北沢５号踏切でのことだ。路地踏切は遮断機もなく危ない、子どもが多く轢かれたという。
「あそこの踏切はおばちゃんの踏切と呼んでいました」
立川家の女中さんが踏切で自殺したことからそう呼んでいたという。立川家に関わる縁者の証言である。この立川家のお嬢さんが立川裕子さんである。
自身、松本特攻に関わる本を何冊も書いた。最近のは暮れに出した、「台湾出撃沖縄特攻-陸軍八塊飛行場をめぐる物語」である、五冊目だ。最初のが「鉛筆部隊と特攻隊」である、ここの中で重要な役割を果たしているのが立川裕子さんである。
鉛筆部隊の田中幸子さん、そして立川裕子さんも亡くなった。この二人と出会わなかったら埋もれた逸話は日の目を見なかった。そう言えば二人とも踏切近くに住んでいた。東北沢４号踏切、５号踏切である。
（三）
みんな踏切逸話に繋がる。踏切は次元の穴だった。
吉増剛造は『猫町界隈』（「地図 不思議な夢の旅 イメージの冒険」 河出書房新社 一九七八年）で下北沢２号踏切脇の「をまもり地蔵」を取り上げている。「不思議な傷口の様な、地底に通ずる目を私は見た」と述べている。「次元の穴」である。
（写真はこの間の町歩き、「代田の丘の６１号鉄塔碑」前で撮ったもの）
