2024年05月03日
下北沢Ｘ物語（4934）―学童疎開・特攻から８０年 ５―
（一）山崎国民学校の疎開出発は遅かった。19年8月27日である、梅丘駅から出て行った。午後8時から行われた学校での壮行会では「海ゆかば」が奏せられたと同窓会報「光りとりどり」では記してある。それで悲しい気持ちになったと。反対に到着時には駅前で「勝利の日まで」を歌わされたという。「なぜにこの歌をうたわなければならないのか」違和感を覚えたと書いている人もいる。この帰着は宿舎がバラバラで帰着時に何もなくてただ解散という組みもあったと。とても興味深かったのは梅丘駅帰着時は映画で撮られているという話を長谷川直樹さんがしていた。何という映画かと聞いたが分からない。撮影者斎藤寅次郎監督の息子さんに聞いてみた。それは『東京五人男』である。
監督は斎藤寅次郎監督である、敗戦でショックを受けた国民を励まそうという意図で作られた映画だ。これからは映画の時代がやってくるという確信的な見通しがあって撮ったようだ。終戦直後の秋にクランクインしている。この映画はYouTubeにアップされている。
まず疎開学童が帰ってくる場面だ。駅前に群衆が詰めかけている。写っている駅舎は梅丘駅である。駅構内が写ってそこに各駅停車が入ってくる。
「桜ヶ丘、桜ヶ丘」との駅案内放送がある。が、ロケは梅丘駅で行われている。
駅前に集まった親たちが盛んに手を振る中を学童たちが列を組んで小走りに駆けてくる。そして下車してきた学童たちは駅前に整列させられる。前に立ったのは男の教員である。出迎えた校長が挨拶する、歓迎の式典である。
（二）
帰京した疎開学童を前に長広舌の演説がはじまる。すると画像は早回しとなる、校長の声は蛙の鳴き声のようにしか聞こえない。キーキーカァカァククと。退屈した子どもたちはいたずらを始める。
思い出すのは疎開学童が浅間に着いたときだ。東京からきたお客さんを出迎える儀式である。村の小学校、本郷国民学校の校庭に疎開学童は集められた。代沢国民学校が着いたのをしおに行われた。既に着いている組も含め、大勢がこれに参加した。村のお偉方が出席しての式典である。村長に始まり、村会議長、教育長などが次々に立って演説をした。紫外線が強烈に降り注ぐ高原の運動場だった、都会育ちの子には耐えられない。が、子どもへの配慮はない、つぎつぎに立ちくらみして倒れる。都会からの引率教員が世話をする。長い式典をいさめようとかいうことはない。
式が終わると今度は護国神社への参拝があったと聞いた。戦争に日本は負けた、新しい民主主義のもとに再出発していく。が、新体制でも子どもへ配慮するという気遣いはない。
「梅丘に着いたときは大変でしたよ。農家の人々がお土産を持たせてくれたんですよ。お米とかがリュックに入っていて重いのですよ。それにノミシラミがひどかったですね、一刻も早く帰ってこれを退治しなければならなかったのですよ……」と斎藤さん。
「親父は迎えに来ていたかどうかわかりません。お袋は来ていました。くたびれ果てた疎開学童の前で長広舌を揮ったという話はお袋からでも聞いていたのでしょう」
（三）
梅丘駅前の撮影は実写じゃないですね。あれはエキストラを募って撮ったのでしょうね。学童なんかもあれは山崎国民学校の学童でしょう」
「多分そうだと思います。」と斎藤さん。
「東京五人男」への評価はどうか、「焼け野原をそのまま見せつけられる」などとあって、あまり評価はされていない。校長の長広舌に対する言及は皆無であった。
（掲載写真は、『東京五人男』からのスクショ）
