2024年05月09日
下北沢Ｘ物語（4939）―朔太郎忌日に「猫町」を歩く―
（一）遙か昔の青春、公務執行妨害で逮捕され大井町署に留置された。面会にきてくれた先生、「静謐な人生を生きるのだ」と、これは鮮明に覚えている。目立たず生きることの大切さだ。先日、世田谷広報に「萩原朔太郎の忌日にゆかりの地の下北沢代田を歩く」を出した、心配は目立ち過ぎだ、が、そこそこの反響があって安堵した。反応で面白いものもある。驚いたのは申し込みの女性「私は今でも下北沢の踏切が忘れられないのですよ」と。「そうそう忘れてはいけませんね。私ね踏切との別れが惜しくてエッセイを書いたんですよ」と「えっ、本当ですか！」と。彼女の問い返しを聞いて瞬時に想起した。「無限に遠き空の彼方／続ける線路の柵の背後に／一つの寂しき影は漂ふ」、萩原朔太郎の『漂泊者の歌』の一節だ。小田急線の線路脇を歩いていたのか？
申し込み者と電話で盛り上がった。つい先だって亡くなられたフジコ・ヘミングさんの話になった。
「金子ボクシングジムのわきの坂を上ると踏切がありましたね。あのそばにフジコ・ヘミングさんは住んでいました」
「そうそう、東北沢３号踏切です」
「３号踏切というのですか？」
「そうそう、交番前踏切が４号、それから路地踏切の５号、そしてあのオオゼキ前の開かずの踏切だったのが東北沢６号なんです、懐かしいですね」
「ええ、よく分かります、そうして番号をつけていくと場面が鮮明になりますね」
「そうそう、大事です。それぞれの踏切には固有性がありました。」
「へぇ、そうなんですか、初めて聞きました」
「３号はのどかだったんです。警報器がカンカンと鳴るでしょう、そうするとピアノ練習しているフジコさんの連弾が聞こえてくるのです、しゅわるる、たらららとか、そうすると警報器がセッションして、くわんくわくわんと鳴るのですよ」
「へぇ、素敵ですね！」
「フジコさん、外国にもお家を持っていらっしゃるそうです」
「それは知りません、私ら文化人の旧居マークを地図につけていますが、新しいのにはつけないと……」
（二）
下北沢『猫町』散歩は、もう十数回も行ってきた。最近作った９版には、『猫町』散歩のモデルコースを入れていた。その紹介をかねての町歩きだ。これに備えて、訃報記事を当たった。新聞のその記事は昭和17年5月12日のに載っていた。戦争中である、新聞片隅にとても小さく載っていた。死去したのは「代田一ノ六三五」,葬儀は自宅でとあった。
津村信夫は、葬儀当日のことを記している。式場には大勢の参列者があったという。
堀辰雄、斎藤茂吉、谷崎潤一郎、室生犀星などだ、津村信夫は保田与重郎とともに受付を行ったと。
ネットには祭壇の写真が載っている。一番左には北原白秋と書かれた花の束が写っている。朔太郎の盟友である、朔太郎を世に出したのが白秋だ、葬儀には参列したのだろうか。白秋年譜を見ると病気を患い自宅療養中だとあった。献花での出席であろう。
故郷前橋では毎年朔太郎忌を催しているようだ。いつだったか、前橋から来た人が朔太郎が世田谷代田で亡くなっていたことは全く知らなかった。
つい２年前萩原朔太郎大全２０２２が開かれた、没後８０周年を記念してのイベントである。全国５４箇所で展示会や講演が開かれたという。
いつも思うが、終焉の地というのは一箇所である。この地域をさんざん歩き回って思うことは最後の地ということの意味である。言えば、生身の人間が幽冥界に移動した地点である。彼は永遠の漂泊者である、漂泊を止めた地点が終焉の地である。彼はそこらへんをひょくひょく歩いていた、これを目撃した人もいた。その彼がいなくなってどうしたか、考えられることは魂の漂泊である。そこら辺りにまだうろついているのではないか、そう考えて当地を訪ねてきた人は数多くいる。
（三）
吉増剛造は朔太郎の信奉者だ。一昨年、「萩原朔太郎大全２０２２」では立正大学で講演があった。日本には詩人が多くいるがなんと言っても朔太郎が一番だと。
いまも萩原朔太郎が、下北沢の「四つ辻にポストが立って、煙草屋には胃病の娘が坐って居る」（「猫町」）の裏通りを黒いマントを着て歩いている幻覚が浮かんでくる。なぜ、下北沢などに朔太郎はやってきたのだろう。
『萩原朔太郎研究』 那珂太郎編 青土社 1974年刊
下北沢・代田は終焉の地、面影を求めてのまちあるきは意義深い。
（鉄塔は、代田の丘の６１号である）
下北沢『猫町』散歩は、もう十数回も行ってきた。最近作った９版には、『猫町』散歩のモデルコースを入れていた。その紹介をかねての町歩きだ。これに備えて、訃報記事を当たった。新聞のその記事は昭和17年5月12日のに載っていた。戦争中である、新聞片隅にとても小さく載っていた。死去したのは「代田一ノ六三五」,葬儀は自宅でとあった。
津村信夫は、葬儀当日のことを記している。式場には大勢の参列者があったという。
堀辰雄、斎藤茂吉、谷崎潤一郎、室生犀星などだ、津村信夫は保田与重郎とともに受付を行ったと。
ネットには祭壇の写真が載っている。一番左には北原白秋と書かれた花の束が写っている。朔太郎の盟友である、朔太郎を世に出したのが白秋だ、葬儀には参列したのだろうか。白秋年譜を見ると病気を患い自宅療養中だとあった。献花での出席であろう。
故郷前橋では毎年朔太郎忌を催しているようだ。いつだったか、前橋から来た人が朔太郎が世田谷代田で亡くなっていたことは全く知らなかった。
つい２年前萩原朔太郎大全２０２２が開かれた、没後８０周年を記念してのイベントである。全国５４箇所で展示会や講演が開かれたという。
いつも思うが、終焉の地というのは一箇所である。この地域をさんざん歩き回って思うことは最後の地ということの意味である。言えば、生身の人間が幽冥界に移動した地点である。彼は永遠の漂泊者である、漂泊を止めた地点が終焉の地である。彼はそこらへんをひょくひょく歩いていた、これを目撃した人もいた。その彼がいなくなってどうしたか、考えられることは魂の漂泊である。そこら辺りにまだうろついているのではないか、そう考えて当地を訪ねてきた人は数多くいる。
（三）
吉増剛造は朔太郎の信奉者だ。一昨年、「萩原朔太郎大全２０２２」では立正大学で講演があった。日本には詩人が多くいるがなんと言っても朔太郎が一番だと。
いまも萩原朔太郎が、下北沢の「四つ辻にポストが立って、煙草屋には胃病の娘が坐って居る」（「猫町」）の裏通りを黒いマントを着て歩いている幻覚が浮かんでくる。なぜ、下北沢などに朔太郎はやってきたのだろう。
『萩原朔太郎研究』 那珂太郎編 青土社 1974年刊
下北沢・代田は終焉の地、面影を求めてのまちあるきは意義深い。
（鉄塔は、代田の丘の６１号である）
