2024年05月13日
下北沢Ｘ物語（4941）―忌日の『猫町』散歩はミステリアス ２―
（一）朔太郎忌は何と呼ぶのだろうか、真っ先に浮かぶのが「おだまき」だ、代田の家は空襲で焼けた。「書斎の真ん中に父の写真と一緒にいつもこの額が飾られていた」（『天上の花』という、『父・萩原朔太郎』出版記念のときに三好達治が持ってきてくれたのが「ところも知らぬ山里に／さもしろく咲きてゐたる／おだまきの花 朔」，家宝の色紙だ。朔太郎詩「夜汽車」の末文だ、朔太郎は好んでこれを書いていたと。おだまきの花期は５月である。「おだまき忌」は「き」が重なるので語呂が悪い。が、「おだまき忌」に「猫町散歩」をするというのもいいのではと思う。
忌日に「猫町」散歩をしたのは初めてだ。葬儀は代田の自宅で行われた。大勢の詩人、文人が訪れたという。中でも室生犀星は病をおして来たという。参列者が群れをなして鉄塔６１号脇の急坂を下っていった様が想像された。転げ落ちるように下る、病気だった室生犀星は介添人い支えられて坂を下ったのではないか。
この坂はネックである、当時は舗装もされていなかった。石などがあればつまづいて転んだところであろう。萩原葉子は祖母から言われたようだ「朔太郎が転ばないように石を除けておきなさい」と。
急坂はネックである。この坂はよく通る、大概が上から下へ降りる。が、前に安曇野から来た人を案内したことがある。路地を西から来て、角を曲がる、そのとたんに鉄塔がのしかかるように聳え建っているのが見えた。
「これはすごい！」
通常とは反対の方向から行くと鉄塔が違って見える。
（二）
詩人の長�鸚胸劼蓮∈鸞析困硫箸剖瓩い箸海蹐暴擦鵑任い拭�初めて訪問したときのことを書いている。
八幡橋から行って、三つ目の橋の際から萩原さんの家の屋根がながめられる。はじめてお訪ねした時、その屋根が普通の家より鋭角で黒っぽく、私は直感的にあれこそ萩原さんの家にちがいないと思って門へ廻ってみたら、案の定萩原さんのお宅だった。
「かく逢った」 永瀬清子 編集工房ノア 1982年刊
八幡橋はない、橋場橋だろう、つぎが二子橋、そして鎌倉橋、桜橋、たぶんこの桜橋が三番目の橋であろう、右手に三角屋根の尖った家が見えてきたはずだ。このときに聳え建つ鉄塔も見えるはずだが、そのことは書かれない。山田醇設計の家を参考にして朔太郎自身が設計したものだ。下手から見て家がどう見えるか、川沿いに来る人々の視線を意識して建ててある、川瀬清子は川沿いに来て、そして朔太郎の家を認めた。
詩人が家を建てた、詩の場合は読者を意識する、家の場合は景観を意識したに違いない。地形上、家を往き来する急坂はネックである。しかし、彼、建築家は見た目を大事した。鋭角的な家があって、さらにその上に銀色の鉄塔が聳え建っている。彼の理想だった、つまり、鉄塔はなくてはならないものだった。
（三）
時は変転する、気分もだ。そう言えば津村信夫が朔太郎の葬儀のことを日記に書いていた、数日前にこれ知った。が、その日記はどこにあるのか。検索で探してみる、私は、目黒と世田谷と大田の図書貸出券を所持している。それで各区の蔵書を調べてみた。
引っ掛かったのが大田区だけである。何か訳があるに違いない。検索で調べる。
馬込文士村で引っ掛かった。津村信夫は馬込文士村圏内に住んでいたのだ。
大田区は広い、しかし、あちこちの図書館まで歩いたことは何度もある、大田図書館は新幹線の脇にある。よしいこう、雨の中、私は歩いた。
（新幹線・大田図書館、六郷用水）
