2024年05月21日
下北沢Ｘ物語（4946）―疎開・特攻・梅丘 １―
（一）今年は疎開から80周年、当事者はもう90歳だ、今のうちに記憶を聞いて置きたい。昨日会ったのは長谷川直樹さん90歳、小市泰子さん91歳だ（写真）、共に山崎国民学校の疎開学童である、疎開先は浅間温泉小柳の湯だ、ここにも特攻隊員が宿泊していてこの二人は彼らと接している。が、彼らは、どこの何隊なのか不明である。松本に飛来した特攻隊二隊，武剋隊・武揚隊は調べ尽くして分かった。数多く飛来している特攻隊はほとんど一切が不明である。が、この小柳の湯隊はお二人からの情報でその素性が分かりかけている。昨日、小市さんが持ってきた彼らからの葉書に「神鷲隊」とあった、すわ、小柳の湯隊の正式名称かと湧き立った、この二人、またとない戦争の証言者だ、二人が語る話は、消えて行こうとしている近代戦争史の一端だ、記録をきちんと取って置かねばならない。
二人と出会った場所は、梅丘だ、昨日邪宗門に行ったとき、梅丘で取られた映画のことが話題になった。山崎国民学校の斎藤晶康さんのお父さんは斎藤寅次郎監督だ、梅丘に帰ってきた疎開学童を映画に撮っている。「東京五人男」だ。
「銀座カンカン娘」、「牛乳屋フランキー」、「驟雨」などなど多くある。
「『代田・梅丘のロケ現場を歩く』は、面白そうだ、ぜひ行いたい」
お二人と出会ったにはその梅丘だ。
「私の家から一番行きにくいのがこの梅丘なんですよ。電車は遠回り、バスは本数が少ないのです、一番は歩きです、家からひたすら北上するとここに着くのです、ぴったり一時間で着きました」
帰りも、山崎小を写真に撮っていくからといい、結局は歩いた。
（二）
お二人と出会って、聞きたいことは多くある。
「疎開のときに父兄の面会日があったでしょう。藤居さんの御両親が来られたのですよ。ところがそのお二人、列車が米軍の戦闘機に遭ったのですよ。その機銃掃射で亡くなられたのですよ」
「それは初めて聞く話です」と私。
即座に思い出したのは「湯の花トンネル事件」だ。高尾を出た列車がトンネルを出てところで機銃掃射を受け、大勢の犠牲者が出た。自身も現場へ行って調べたことがあった。それで手元にある資料「中央本線四一九列車」を調べた。犠牲者一覧が載っていたが藤居さんの名はなかった。すると別の事件か？
この話は長谷川さんがよく知っている、そう聞いていたので、さっそくにこのことを
確かめた。
「小市さんから電話で聞いたのですが、小柳の湯に面会に来ようとした藤居さんの御両親が中央線で米軍の機銃掃射に遭って亡くなられたと言うのですが……」と私。
「その話、みんな尾ひれがついてみんなに出回っているのですよ。しかし、それは違うのですよ」
彼はそう言ってコピーを取り出した。『ひかりとりどり』第３号（2005年12月発行）だ。これには「集団疎開と両親の死」（昭和二十四年卒業 第五回生 藤居康宏）として息子さんが記録に書いておられた。
その記事によると昭和二十年九月六日のことだという。山崎国民学校は、四月に再疎開している、藤居さんは、再疎開先の「吹上の湯」にいたときのことだったという。
両親を乗せた列車が山梨県の笹子トンネル近くを走行中、居眠り運転が原因で列車脱線転覆、数多く人々の生命と未来を奪う大惨事となり、不運にもその犠牲者の中に私の両親も含まれていたのです。父三十九歳、母四十歳の時のことでした。
笹子トンネル近くと聞いて直感したのはスイッチバックでの事故だ。ネットで調べてみる。「日本の鉄道事故」に記事があった。
（三）
中央線笹子駅構内脱線転覆事故
1945年（昭和20年）9月6日
中央線笹子駅構内で、スイッチバックのため折り返し線に午前3時41分に到着した下り403列車（ED16形4号機牽引）が車止めを突破し、機関車と客車9両のうち3両が大破転覆した。死者60名、負傷者91名。原因は機関車乗務員の居眠り運転とされている。
このときに山崎国民学校の学童は二人兄弟で、文集に書いたのは藤居康宏さんだ。お兄さんは、藤居寛さんだ。帝国ホテルの社長を務めた人だという。
想像がつくのは、残された息子さんたちの苦労である。最後には帝国ホテルの社長になった。そこにはきっとドラマがあったはずだ。
（梅丘で長谷川さん、小市泰子さん。下は湯の花トンネル）
