2024年05月22日
下北沢Ｘ物語（4947）―疎開・特攻・梅丘 ２―
(一）「疎開列車が山の中で停止をしました、そして後ろ向きに走り出したのです。『先生、こわいよ。このままだとぶつかってみんな死んじゃうよ』、『だいじょうぶだ、これは鉄道の仕組みなんだ、汽車は急勾配を上がれない、だからジグザグに坂を上るんだよ。これをスイッチバックっていうんだよ』、代沢小で疎開のことを話しているが、エピソードでこのスイッチバックの話をしている」山崎国民学校の藤居康宏さんの御両親が子どもに面会に行く途中、笹子トンネル近くを走行中事故に遭ったと。これを知ったときスイッチバックでの事故にちがいないと思っていたらまさにドンピシャリであった。御両親の突然の訃報を聞いて子はどれだけ悲しんだろう。が、これを人生の試練と捉えて子は必死になって頑張った。それは並大抵の労苦ではなかった。
遺された兄弟、弟は藤居康宏さん、兄は藤居寛さんである。こちらは帝国ホテルの社長を務めた人でウィキペディアにも事故のことが載っている。
東京都出身。終戦直後の夏1945年9月6日、15歳で両親を中央線笹子駅構内脱線転覆事故で亡くした。さらに事故の10日後に、身元確認のため埋葬されていた遺体を掘り起こし、その後自らの手で一晩かけて火葬した。以後、土木作業員などとして働き、祖母、妹、弟を養いながら学校に通った。
大学は一橋大学である、多分苦労を重ねたのであろう、努力が実って帝国ホテル社長を務めておられる。寛氏は終戦時は十五歳、疎開から引き揚げてもう中学に通っていたのだろうと思う。早くに親を亡くし，自分が頑張るしかないと懸命に努力をされたのだろう。
興味深いのは、彼の座右の銘がMBWAだったと。"Management by ｗalking around（マネジメント・バイ・ウォーキング・アラウンド）"の略、訳すと「マネジャーは現場に足を運び、ブラブラしながら仕事をしましょう」、つまりマネジメント層が現場に足を運ぶ重要性を説いた言葉だという。
現場を歩く、大事だ、一昨日長谷川さんと小市さんと梅丘で会った。梅丘は土地の文化としても興味深いところだ、写真を撮りそこなったこともあって昨日また梅丘へ行った。
バス路線として梅丘から等々力操車場行きというのがあって興味を引いた。帰りにこれに乗った。乗客は案外に多かった。梅丘を南北に貫く道路は、東京山手急行の路線跡だ。
東京の交通網は放射状が主である、等々力行きバスは、南北縦貫線ラインとしてそれなりの需要があって運行されている、全線を乗ってそれを実感したことだ。
（二）
山崎国民学校の疎開についてだ。
昭和十九年八月二十七日、梅丘より新宿に行き中央線の夜行列車で信州松本に向かい、松本駅より疎開地・浅間温泉小柳旅館に全員無事に着きました。女子は全員八十五畳の大広間で、男子は四、五部屋に分散しての生活でした。
「光りとりどりに」山崎国民学校同窓会報 第３号 2005年12発行
小柳の湯学寮 集団疎開とその後 第一回生 新村秀子
〇「私達女子は、二階でした。大広間の一畳分が自分の寝床でした。宴会場にも使っていました。特攻隊の皆さんを送るときはここで会は開かれました。男子も女子も参加して、皆で唄を歌った覚えがあります。多分それが送別会だったのでしょう。兵隊さんの人数は十数名だったと思います。」と小市さん。
〇「人数が問題なんですね、他の例をみると十五人なんです、だから満州からきた彼らも同じぐらいだったでしょう」と私。
〇「私らは一階の部屋に分散して寝泊まりしていました。特攻隊の人たちは三階に居ました。いくつかの部屋があってそこに居ましたね、男子はときどき彼らに呼ばれて部屋に行きましたよ」と長谷川さん。
〇「浅間温泉の本郷小学校に慰問団みたいなのがきて、いろんな唄を披露してくれたのですよ。ほら、あれ、『むかしむかし、そのむかし、じいさんとばあさんがおったとさ』というやつ」と長谷川さん。
〇「それは富貴の湯で学童と特攻隊員とが掛け合いで歌っていたと聞きました。兵隊たちが歌うと、学童が、『よいやさ、きたさ』と合いの手を入れる。これがとても楽しかったといいます。じゃあ、慰問団がきてこの唄を広めたのですね……」
（三）
生方泰子（小市）さんが浅間に着いてまもなくして母からきた手紙。
泰子ちゃん。昨日出発の時は荷物があまり重かったのでさぞ困ったろうと皆で心配致しましたが、元気で無事に着いたことと思います。今9時半ですから、泰子ちゃんはきれいなお湯に入って浅間温泉での第一夜の眠りについたことと思いながらこの手紙を書き始めました。今日はお荷物の整理に忙しかったでしょう。もう一つ大きなお風呂敷を入れればよかったと思いますから今度送ります。
敦子と裕子も昨日駅まで見送らないで寝てしまったのがよほど残念だったと見えて、敦子は夜中に目を覚まし「泰子お姉ちゃんもう行っちゃったの」裕子は寝言で大きな声で「行ってらっしゃいと」言っておりました。見送りに行った夢を見ていたのでしょうか。おかあちゃんも今日は一日中泰子ちゃんのことを考えておりましたが、お家のみんなと離れた泰子ちゃんはもっともっと辛いことだろうと思いますが、これもお国の為なのですからよく我慢して強い立派な子供になりましょう。
泰子より大きいお姉ちゃんがお父ちゃんやお母ちゃんと一緒に居るのに小さい泰子だけがと思うかもしれませんが、お姉ちゃんは泰子が知る通りの朝早くから夜遅くまで体がクタクタになるまで働いて学生としての本分を尽くしているのですから国民学校の子供をとしてのつとめを果たさなければなりません。おかあちゃんは泰子ちゃんと一緒に楽しく暮らす日を楽しみに一生懸命に働きます。何度も言ったようにお友達と決して喧嘩をしてはいけません。また、体をくれぐれも気をつけてください。今日かぼちゃの花が二つ咲きましたから泰子の代わりに花粉をつけておきました。虫にきゅうりやろうと思いましたら逃げてしまいました。ごめんなさいね。また、代わりをつかまえます。かわいい泰子ちゃんへ お母ちゃんより。
昭和十九年当時の母の子を思う気持ちが読み取れる。情愛豊かな母親の様子がよくわかる。いまわれわれはこういう情愛を持てているだろうか。
（写真は、梅丘駅から出ている等々力操車場行きバス、梅丘駅北口、世田谷線は梅丘駅に行く途中猫電車に出会ったものだ）
