2024年05月24日
下北沢Ｘ物語（4948）―疎開・特攻・梅丘 3―
（一）浅間温泉小柳の湯に疎開していた長谷川直樹さんと小市泰子さんから往時のことを聞いた。小市さんからは日記を借りた。「日記に言葉を書くときは本当のことは書きません、言いたいことがあれば学校に行くときにそっと手紙に書いてうちには知らせました」と小市さん、差し障りのあることや秘密は記さない。確かに日記には先生の朱が入っていて点検されていたことが分かる。疎開学童は日記を書き、手紙も書いた。この二つを読み解く場合は、日記には教師によ点検があることを勘案して読まなければならない。が、それはそれとして日記に当たると行間を読み解くおもしろさがあることを知った。
二人が特攻隊員と接したのは1945年3月だ、丹念に読んだが特攻隊に関わる記述はあまりない。それでも一箇所あった。小柳の湯に来た特攻隊は３月に滞在していた。なぜこの時期にここに来たか。理由は明瞭である、この月に米軍の沖縄侵攻が始まった。これに備えての飛来である。
どこから来たのか、これを推理する楽しさがある。これまでの経験から出撃地は第二航空軍、つまり満州在の特攻隊ではないかと思われる。この隊の目的は沖縄侵攻である。これに備えて彼らは朝鮮経由で当地にやってきたようだ。
小市泰子さん、旧姓は生方である。日記は丹念に書かれている。特攻隊の動向を考えると３月が中心になる。しかし、先月の2月25日の出来事も関連してくる。この点は大事である。（仮名遣いは読みにくいので現代仮名遣いに変えた）
２月２５日 日曜 雪
六年生がかえるというのにちらちらとたくさん雪が降っている。今日は朝飯は赤いごはんだし、お昼も天ぷらだ。
六年生は二時に出発した。私たち五年生は浅間の駅まで見送りに行こうとする途中警戒警報が出、駅につくと間もなく空襲警報が出て敵B29が上空を五機で三回まわり、伊深の山のうらに爆弾を一つ落とし、焼夷弾を百くらい落としたがひがいはなくすんだ。
六年生のいない一夜だ、少しさみしかった。これからは五年生でしっかりやろう。
（二）６年生は受験があることで卒業を待たずに２月２５日に帰京した。雪の降るこの日B29が五機飛来してきて爆弾と焼夷弾とを落とした。
この日、帰京した６年生は何人いたのか。世田谷区教育史資料編六（1993年）によると、帰京者は４８名引率２名である。５０名近い６年生が一気に減った。ごっそりと数が減った疎開宿もさびしくなった。
３月３日 土曜 天気 晴
昨日の夜、急にサイレンが鳴り、同時に敵機が上空を飛び爆弾が大きな音をたてて里山辺の方落ちた。
これは次の歴史事実と符合する。
1945年3月2日、長野県里山辺村(現-松本市)にB29が4発の爆弾を投下。
浅間温泉に滞在していた世田谷の疎開学童は翌月４月に、近隣の農村部へ再疎開を行うが、理由の一つは温泉が安全地帯ではなくなってきた。２月末のB２９襲来、そしてまた今回だ。
小柳の湯、６年生が居なくなった。３月に入ってすぐに、その六年生の穴を埋めるように兵隊が入ってきた。
（三）
３月10日 土 零下２度
陸軍記念日だ。思えば去年は山崎校の庭で運動会が行われた。
午前中は音楽の練習をやり私達は一生懸命だ。音楽会は十三時にはじまりお客さまがいらっしゃれるそうだ。いよいよ私たちの番というまぎわになったとき、胸がどきどきしてきたが案外よくできた。明日は日曜日だ、一週たつのはずいぶん早いものだ。
三月十日の陸軍記念日の式典は下浅間小学校の校庭で形ばかりの式が行われた。（「開門岳」飯尾憲士 集英社）浅間に滞在していた武剋隊は参加している。武揚隊も同じだろう。小柳の湯の隊はもう着いていたようだ。これに参加したのだろうか？
（上、世田谷山崎小学校、下、砧公園バラ園、今日行ったがあらかた終わっていた）
