2024年05月28日
下北沢Ｘ物語（4951）―疎開・特攻・梅丘 6―
(一）記録が歴史を創っていく、我々にはこのことに対する認識が希薄である。だから大事な戦時記録もあっさりと燃やした。それで歴史が分からない。先に「旧陸軍松本飛行場は本土決戦の航空拠点か」と原明芳さんの提起があったが、多数飛来してきた特攻機からすると沖縄決戦の航空拠点であった。が、飛来した機の素性は二隊しか分かっていない。不明な中で三隊目が分かりかけている。小柳の湯隊だ。歴史解明の最後の砦だ、ここの三人の疎開経験者から話を聴いている。みな90歳である。後がない，今どれだけ聞き出せるかだ。しかし、分かったのは断片だ、これを総合して推論を組み立てるしかない。
一人目は斎藤晶康さんだった。分館の椿の湯に来た特攻隊員と接触した。湯船は本館にもある。湯船の小さいこちらに来たのは、上官に遠慮してのことだろう。その彼らから覚悟を問われた。
「お前、天皇陛下のために死ねるか？」
興味深い問い掛けだ、きっと若い兵に違いない。少年飛行学校出の19歳とかが浮かぶ。
若者らしい衒いを感じる，俺たちは天皇陛下のために死んでいくがお前は？
彼は特攻出撃しての死を考えていた。
「はい、死ねます」
聞かれた者はこうこたえるしかなかった。斎藤君は四年生だった。
斎藤君は，分館椿の湯に滞在していた。男子だけの十数名だ。特攻隊員との関わりは風呂場だけだった。が、出撃お別れのときは、まっ赤な赤い毛布を持ち出してきて一生懸命特攻機に向かって振った。本館と分館は百四五十メートル離れて居る。お別れ，デモンストレーション飛行はこちらにも情報が届いていた。つまりは全校学童が知っていた。
（二）
本館での特攻隊員との交流はあった。三階に彼らは陣取っていた。複数部屋に別れて寝泊まりしていた。階級によって部屋をわけていたはずだ。
この三階には、男子は呼ばれて何度か行っていた。彼らとの交流の一端はこうであった。
山崎小学校同窓会会報第3号 2005年12月20日発行「ひかりとりどり」の「誰も書かなかった集団疎開」（今井 賢治）に記されている。
大きなタイル張りの浴槽に硫黄分を含む温泉に毎晩入浴できたが、子どもには有難味はなかった。軍事演習帰りの兵隊がドヤドヤ入ってきたが、子ども好きで軍歌を歌われる。
ロッキー山脈アルプスの
雪の峰峰見下ろして
操縦棹を握れば
エンジンの音懐かしく
心も躍る雪の上
アアそうなるや航空兵
お蔭で軍歌のレパートリーは広い。私の歌唱力の原点はここにあったのかも知れない。
この歌は、「航空兵の歌」である。作詞 久保木巌 昭和３年(1928)とある、飛行兵の愛唱歌だった。特攻隊員たちはこの歌をよく歌っていた。
「演習帰り」とは何か，これは一つしかない、飛行訓練である。特攻隊員の多くは若者である。一番不足していたのは飛行時間である。近代兵器の飛行機，やはり一番は乗り慣れることである。これができていないので油まみれになって行った。
お風呂場での出会いから、接触が始まった。「三階に遊びにこいよ」ということで男子は行っていた。
（三）
女子との交流はどうだったか。一般的にはあった。外で遊んだり，散歩に行ったり，お笑い会で会ったりした。
都会から来た疎開学童女児は，彼ら，若者にとって愛らしく、愛おしく見えた。多くが思慕の念を抱いた，それで人形を作ってもらってそれを操縦席に飾っていた。他の寮では告白をされた女子もいた。小柳の湯でもあったろう。どうやら小市さんも見初められたようである。
小柳の湯隊は出撃に失敗し原隊復帰したらしい。その特攻隊員と戦後になって東京で出会ったという思い出を小市さんは持っていた。その出会いは，究極のドラマである。しかし、彼女から得た手紙を調べていくとつじつまが合わない。確かめてみると彼女の思い違いであったようだ。
ただ小柳の湯で出会った特攻兵については思い出深い人はいた。彼からは人形のようなものをもらったことは覚えていた。
（四）
今日は駒繋小まで行った。学校の塀のところで掃除している女性に声を掛けた。連れ合いが疎開したが新潟へ行ったと。縁故疎開である。
この学校、浅間温泉の東山温泉に疎開している。ここにいた学童を探している。
「ええ、確かに兵隊さんを見かけました」
たったその一ことでよい、証言を求めているがなかなか出会えない。
（写真：小柳湯学寮第四分隊：「ひかりとりどり」より。フェイスブックは現山崎小）
本館での特攻隊員との交流はあった。三階に彼らは陣取っていた。複数部屋に別れて寝泊まりしていた。階級によって部屋をわけていたはずだ。
この三階には、男子は呼ばれて何度か行っていた。彼らとの交流の一端はこうであった。
山崎小学校同窓会会報第3号 2005年12月20日発行「ひかりとりどり」の「誰も書かなかった集団疎開」（今井 賢治）に記されている。
大きなタイル張りの浴槽に硫黄分を含む温泉に毎晩入浴できたが、子どもには有難味はなかった。軍事演習帰りの兵隊がドヤドヤ入ってきたが、子ども好きで軍歌を歌われる。
ロッキー山脈アルプスの
雪の峰峰見下ろして
操縦棹を握れば
エンジンの音懐かしく
心も躍る雪の上
アアそうなるや航空兵
お蔭で軍歌のレパートリーは広い。私の歌唱力の原点はここにあったのかも知れない。
この歌は、「航空兵の歌」である。作詞 久保木巌 昭和３年(1928)とある、飛行兵の愛唱歌だった。特攻隊員たちはこの歌をよく歌っていた。
「演習帰り」とは何か，これは一つしかない、飛行訓練である。特攻隊員の多くは若者である。一番不足していたのは飛行時間である。近代兵器の飛行機，やはり一番は乗り慣れることである。これができていないので油まみれになって行った。
お風呂場での出会いから、接触が始まった。「三階に遊びにこいよ」ということで男子は行っていた。
（三）
女子との交流はどうだったか。一般的にはあった。外で遊んだり，散歩に行ったり，お笑い会で会ったりした。
都会から来た疎開学童女児は，彼ら，若者にとって愛らしく、愛おしく見えた。多くが思慕の念を抱いた，それで人形を作ってもらってそれを操縦席に飾っていた。他の寮では告白をされた女子もいた。小柳の湯でもあったろう。どうやら小市さんも見初められたようである。
小柳の湯隊は出撃に失敗し原隊復帰したらしい。その特攻隊員と戦後になって東京で出会ったという思い出を小市さんは持っていた。その出会いは，究極のドラマである。しかし、彼女から得た手紙を調べていくとつじつまが合わない。確かめてみると彼女の思い違いであったようだ。
ただ小柳の湯で出会った特攻兵については思い出深い人はいた。彼からは人形のようなものをもらったことは覚えていた。
（四）
今日は駒繋小まで行った。学校の塀のところで掃除している女性に声を掛けた。連れ合いが疎開したが新潟へ行ったと。縁故疎開である。
この学校、浅間温泉の東山温泉に疎開している。ここにいた学童を探している。
「ええ、確かに兵隊さんを見かけました」
たったその一ことでよい、証言を求めているがなかなか出会えない。
（写真：小柳湯学寮第四分隊：「ひかりとりどり」より。フェイスブックは現山崎小）
