2025年07月07日
下北沢X物語(5211)―皇民化教育と天皇と戦争―

(一)天皇制ということで即座に想起される逸話がある。浅間温泉椿の湯に本館から特攻隊員が風呂をもらいにきた。山崎国民学校の三年生の男子は一緒に風呂に入っていた。若い隊員が急に質問をしてきた。「お前は、天皇陛下のために死ねるか?」と。彼はその質問に反射的に答えた。「は、はい、死ねます」と。二十歳に満たない少年航空兵だろう。彼は特攻で死ぬことへの煩悶を抱えていたのではないか。それで風呂でたまたま一緒になった子に聞いてみた。聞かれた方も「死ねません」とは答えられない。天皇が絶対的な力を持っていたからである。すでに国民学校に入ったときから皇民化教育ははじまっている。学校に入ると校門のすぐそばに奉安殿があった。ここの前では必ず頭を下げてから通り過ぎなければならなかった。
新入生は、入学するとこの奉安殿について説明を受けた。
どこの学校もそうだが正門すぐそばに赤い煉瓦造りのお宮のような小さな建物があった。
「この建物の名前はかならず覚えましょう。『ほうあんでん』といいます。何が入っていると思いますか?」
「おきつね様!」
「失礼なことを言うな、お稲荷様が入っているわけではない。大切なものが入っているのだ。それは御真影だ。天皇陛下と皇后陛下のお写真が収められている。それともう一つだ。
教育勅語が、収められている。勅語というのは天皇のお言葉ということだ。御真影と教育勅語は国から預かっただいじな宝ものなのだ。だからここの前を通るときにはかならず深いお辞儀をして通るのです」
学童一人一人には、「兒童手帳」が配られた。
私が参照しているのは、昭和十九年十一月三日に配られた。「兒童手帳」である。
東京第一師範学校男子部附属国民学校 大槻 統 さんと名の入ったものだ。
(二)
これをめくっていくと「兒童誓詞」があり、その一番目は一 君二忠二父母二孝二 誠ノ日本国民二ナリマス
各自がこれを持って大きな声で読み上げた。「天皇の忠実な僕になることを誓い、父母には孝行を尽くして、私は真の日本人になります」と。
さらにめくると「兒童戦時訓」があり、第一番目が
一 大東亜戦争」である、そして末尾に
かくご 私たちは大日本の少國民です。大東亜戦争にかならず勝ちます。
これも手帳を各自が持って、声に出して読み上げさせていた。
皇民化教育の一端である。
つぎが二番目である。
兵隊さんのご恩
兵隊さんは、私たちのお父さんです。私たちのおにいさんです。私たちのをぢさんです。
肌をやく暑さ、骨にとほる寒さ、どんなにおくるしいでせう。雨あられと降りてくる弾丸の中の突撃、爆撃、夜襲戦。ああ「天皇陛下万歳」と、にっこり笑つて華とちられた靖國の英霊、涙がこぼれます。心から拝みます。
病にかかられた兵隊さんや、傷病の兵隊さんを、おなぐさめいたします。できるかぎりお力になります。
戦地の兵隊さんの武運長久をいのります。まごころをこめて慰問いたします。
かくご
私たちは軍国の子どもです。こころからの感謝をもつて、兵隊さんのご恩にむくいます。
(三)
参議院選がはじまった。今回の選挙では「天皇を中心とした国家」を謳っている党がある。人気を沸騰していると。引用した『兵隊さんのご恩』に深く共鳴する団体のようだ。
「ああ『天皇陛下万歳』と、にっこり笑つて華とちられた靖國の英霊、涙がこぼれます。心から拝みます。」
これは特攻隊である。これを美化するふうであることがとても危険である。



















