赤堤
2012年10月30日
下北沢Ｘ新聞(2192)〜Game Cook Charleeの航跡再び３〜
（一）
昭和２０(1945)年５月２４日、２５日の空襲で東京はほとんど焼き尽くされた。首都は機能を失う。アメリカは、「焼夷弾攻撃のリストから」東京を外した。屈辱の日であった。
２４日の夜、一色次郎はこの空襲のさまをつぶさに見ていた。根津山の上からである。彼が記した「五月二十四日」の記録は何回か読んだ。が、今回改めて見直してみて気づいたのは間近に墜ちたＢ２９のことが書かれていたことだ。
この日低空で侵入してきたＢ２９は高射砲に多く被弾した。「爆撃機が、非常な低空を飛ぶようになった」と記している。彼は小田急線が眼下に見える場所にいる。
森から一本はなれた松の根もとまで見えるのである。小田急の沿線のどこかが燃えている。私の四方は、どこもかしこも火の壁になってしまった。爆撃機が、また二機落ちていった。右翼から火を噴いて落ちてきたのが七機目である。
『日本空襲記』一色次郎 大和書房刊 昭和４７
根津山の周り一帯が火に包まれたことになる。５月１８日に「東京都立松沢病院 梅ヶ丘分院」に変わった元の青山脳病院もこのときに焼けたように思われる。そんな中で敵機が次々に墜落していく。七機目は近い。千駄ヶ谷に落ちたＢ２９だとも考えられる。この夜だけでも九機撃墜されている。
とても低空のせいか、爆撃機の燃えていくようすがよく見えた。最初、火の玉は右翼の付け根で燃えていた。そのまま飛んでいたが、十秒ともたなかった。私の正面で右へ旋回していたが、その間にも火の玉はぐんぐんふくらんだ。一旋回しおわらないうちに、爆撃機の右翼の先端へ同時に火が走り、そして、機体は音もなく数千の破片に爆発してしまった。 『日本空襲記』
至近距離で目撃した爆撃機の記述である。これにあてはまるのは「東京都世田谷区赤堤町１丁目３８２番地」に墜ちた、愛称、Game Cook Charleeであろうと思われる。ほぼ真西、約二キロメートル行ったところに本体は墜ちている。
一色次郎がいう正面は西だろう。この日、記録によると爆撃機「二三千メートルの高度」で飛来してきている。彼は、「丘の稜線の上へ次々に一機ずつ出てくる」と書いているが地上すれすれに見えたのかもしれない。
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